労働基準法(以下、労基法)第32条の4第1項が定める1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の期間を平均して1週間あたり40時間以内にする制度です。あらかじめ労働日ごとの労働時間を定めておくことで、特定の日に8時間または特定の週に40時間を超えて労働させることが可能となります。1年変形労働時間制は、「年間単位」で休日増を図る=所定労働時間の短縮に有効という考え方がベースにあるとされています。1か月単位の変形労働時間制と同様、業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に配分できる反面、1か月単位の変形労働時間制以上に労働日数や連続勤務などの制限が厳しく、法令を正しく理解して管理しなければ未払い賃金が発生する恐れがあります(労基法第37条第1項)。
IPO準備企業で労務監査の指摘が生じやすいのは以下の点です。
□就業規則の整備や労使協定の締結・届出など、導入手続きの不備
□対象期間における労働日数の上限(原則280日)や連続労働日数の上限(原則6日)等の限定則の逸脱
□1日10時間・1週52時間の上限規制を超える労働時間の事前設定、および直前・事後の不適切なシフト変更
□対象期間の途中で採用・退職した労働者に対する、期間途中の清算
□1年変形労働時間制に対応した、正しい割増賃金(残業代)の計算漏れ・未払い 等
変形労働時間制の導入は、非常に厳格であり、不備があった場合は、変形労働時間制が無効となり、最終的には未払い賃金が表面化する可能性があります。既に、導入している場合は、導入手続き・運用が法定要件を満たしているか、改めて確認しましょう。
01.導入方法
1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定で以下の項目について締結し、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります(労基法第32条の4第1項)。また、常時10人以上の労働者を使用する事業場においては、1年単位の変形労働時間制を導入する旨を記載した就業規則も所轄の労働基準監督署長に届け出なければなりません(労基法第89条)。1か月変形労働時間制と違って、1年単位の変形労働時間制の場合には、就業規則で定めるだけという方法は認められておらず、原則として、労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要がある点、留意が必要です。
| ①対象労働者の範囲 年少者については、原則として1年単位の変形労働時間制の対象とすることができません(労基法第60条第1項)。ただし、義務教育を修了した満15歳以上満18歳未満の者については、1週間48時間、1日8時間以内であれば対象にすることができます(労基法第60条第3項)。 ②対象期間および起算日 対象期間と起算日は具体的に定めなければなりません。なお、対象期間は1か月を超え1年以内に限ります(労働基準法第32条の4第1項第2号)。そのため、1年以内であれば、3か月、4か月、6か月といった対象期間を設定することも可能です。 ③特定期間 対象期間中の特に業務が繁忙な期間を特定期間として定めることができます(労基法第32条の4第1項第3号)。なお、対象期間中に特定期間の変更はできません。 ④労働日および労働日ごとの労働時間 対象期間内の全期間の各日、各週の所定労働時間について定める必要があります。ただし、対象期間を1か月以上の期間に区分することとした場合は、以下の内容をあらかじめ労使協定で定めておきます(労働基準法第32条の4第1項第4号)。 ・最初の期間における労働日 ・最初の期間における労働日ごとの労働時間 ・最初の期間を除く各期間における労働日数 ・最初の期間を除く各期間における総労働時間 この区分管理を行う場合、最初の期間を除く各期間の具体的な労働日および労働日ごとの労働時間は、それぞれの期間が始まる少なくとも30日前までに、過半数組合または過半数代表者の同意を得て定めなければならないとされています(労基法第32条の4第2項)。 ⑤労使協定の有効期間 労使協定を締結する場合は有効期間を定める必要があります。なお、有効期間は、変形期間が長期(1年)にわたることから、不適切な変形制が適用されることを防ぐため、その期間も1年程度とすることが望ましいとされています。仮に、1年を超える場合であっても、3年以内程度が検討可能範囲と考えられます。 |
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法第60条
- 労働基準法第89条
リーフレット等
書式
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なお厚生労働省のリンク先ページが移動・削除されている場合、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」のページに過去の資料(アーカイブ)として掲載されている旨の案内が表示されることがあります。その場合は、案内先より過去の資料をご参照ください。
02.法定労働時間
1年単位の変形労働時間制は、1か月を超え1年以内の一定期間を平均し、1週間の労働時間を40時間以内の範囲内となることを条件に、特定の日の労働時間が8時間を超える、または、特定の週の労働時間が40時間を超えることが可能となります。1週間あたりの労働時間が40時間を超えないようにするため、対象期間の労働時間の総枠は以下の計算式で算出した時間となります(労働基準法第32条の4第1項)。
| 所定労働時間の総枠 = 40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7 |
対象期間の長さに応じた具体的な法定労働時間の総枠は、以下の通りです。
| 対象期間 | 法定労働時間の総枠 |
| 1年 365日の場合 | 2085.71時間 |
| 6か月 183日の場合 | 1045.71時間 |
| 4か月 122日の場合 | 697.14時間 |
| 3か月 92日の場合 | 525.71時間 |
なお、割増賃金の支払いが必要な時間外労働となる時間は、1日、1週間、対象期間のそれぞれにおいて、以下の順番で判定を行います(労働基準法第37条第1項)。
| ①1日について あらかじめ8時間を超える時間を定めた日はその時間を超えて労働した時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間 ②1週間について あらかじめ40時間を超える時間を定めた週はその時間を超えて労働した時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間。ただし、①で既に時間外労働となった時間は除きます。 ③対象期間について 対象期間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間。ただし、①または②のステップで既に時間外労働となった時間は除きます。 |
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法第37条
リーフレット等
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03.1日・1週間の労働時間の限度
1年単位の変形労働時間制では、1日および1週間の労働時間に限度が定められています。1日については10時間、1週間については52時間が限度時間とされています。なお、隔日勤務のタクシー運転者においては16時間となります(労基法第32条の4第3項)。また、対象期間が3か月を超える場合、限度時間を設定できる範囲に以下の制限が設けられています(労基法施行規則第12条の4第5項)。
| ①対象期間中に、週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内とすること ②対象期間を初日から3か月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数は3以内とすること ※なお、ここでの週とは、対象期間の初日の曜日を起算とする7日間を指します。 |
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法施行規則第12条の4第5項
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04.労働日数の限度
1年単位の変形労働時間制では、対象期間における労働日数に原則として1年間で280日という限度が定められています。対象期間における上限日数は以下の計算式で算出しますが、対象期間が3か月以内の場合はこの制限は適用されません(労基法施行規則第12条の4第3項)。
| 労働日数の限度 = 280日 × 対象期間中の暦日数 ÷ 365日 |
なお、前年度も1年単位の変形労働時間制を協定している連続する協定である場合は、新たに締結する労使協定が以下のいずれかの要件を満たすと、前年度の協定に定める1年あたりの労働日数から1日を減じた日数と280日のいずれか少ない日数を、新たな労使協定における労働日数の限度としなければなりません(労基法施行規則第12条の4第3項)。
| ①新たな協定で定める1日の最長労働時間が、前年度の協定における最長労働時間と9時間のいずれか長い時間を超えるとき ②新たな協定で定める1週間の最長労働時間が、前年度の協定における最長労働時間と48時間のいずれか長い時間を超えるとき |
また、労働日数は法定労働時間の総枠の範囲内でしか設定できません。1日の所定労働時間が8時間の場合、280日では2240時間となり、365日における法定労働時間の総枠である2085.71時間を超過してしまいます。そのため、1日の所定労働時間が8時間の場合は、365日において260日が労働日数の上限となります。
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法施行規則第12条の4第3項
リーフレット等
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05.連続勤務日数の制限
1年単位の変形労働時間制は、労働者の生活に大きな影響を与えることから、連続して勤務できる日数は原則として6日までとされています。1週間に1日の休日を確保できていればよいということではありませんので、休日の設定に注意する必要があります(労基法施行規則第12条の4第4項)。
ただし、労使協定で特定期間を設けた場合、特定期間については1週間に1日の休日を確保できる日数とすることができます。つまり、最長で12日まで連続勤務させることが可能となります(労基法施行規則第12条の4第4項)。
なお、労使協定の締結時に特定期間を定めていない場合は、特定期間の定めをしないことにしたとみなされます。また、対象期間の途中で特定期間を変更することはできないとされています(労基法第32条の4第1項第3号)。
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法施行規則第12条の4第3項・第4項
リーフレット等
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06.労働時間の管理方法
1年単位の変形労働時間制を適用する期間は、シフト表やカレンダーなどによってあらかじめ労働日ごとの始業時刻、終業時刻および労働時間を定め、労働者に周知することが必要となります。このように事前に特定した労働日または労働時間は、使用者の都合によって任意に変更することはできません(平成6年1月4日 基発第1号)。
また、本制度を導入した場合であっても、育児や介護を行う者、職業訓練または教育を受ける者など、特別な配慮を要する労働者については、それらに必要な時間を確保できるように配慮しなければなりません(労基法施行規則第12条の6)。
なお、1年という長期にわたって、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分するものなので、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度ではありますが、1年以内の一定の期間を平均して週40時間を超えることも想定される場合は、36協定を締結および届出が必要です。
関係法令
- 労働基準法第32条の4
- 労働基準法施行規則第12条の6
通達
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