労働者の健康確保は、安全衛生管理体制の構築と並ぶ労務管理の最重要テーマの一つです。労働安全衛生法(以下、安衛法)では、事業者に対して各種健康診断の実施やストレスチェック、医師による面接指導などを義務づけています。
健康管理に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。
□ 雇用形態(パート・アルバイト等)や週所定労働時間に応じた健康診断対象者の抽出漏れ
□ 健康診断の受診率100%に向けた適切な受診勧奨・追跡管理の不足
□ 健康診断で異常所見がある労働者に対する医師等からの意見聴取や就業上の措置(事後措置)の未実施
□ 深夜業等に従事する特定業務従事者健診(年2回)の実施漏れ
□ 高ストレス者や長時間労働者に対する面接指導体制および申出環境の未整備
□ 常時50人以上となった事業場における定期健康診断・ストレスチェック結果報告書の労働基準監督署への未提出等
単に「健康診断を実施している」という事実だけでなく、受診管理から医師の意見聴取、必要な事後措置(就業上の配慮)までの一連のプロセスを確実に運用・記録化することが求められます。自社の状況を正しく把握し、確実な実務フローを構築してください。
01.健康診断の対象者
労働安全衛生法(以下、安衛法)が事業者に実施を義務づける一般健康診断の対象となるのは、「常時使用する労働者」(安衛法66条1項、安衛則44条1項)であり、ここにいう「常時使用する労働者」とは、正社員のみに限られず、パートやアルバイト等の直雇用・非正規労働者も含まれます。派遣社員は派遣元に雇用されており、派遣元で健康診断を行うこととなるため、雇用関係のない派遣先に健康診断の実施義務はなく、また、日雇労働者に対しても実施義務はありません。
<常時使用する労働者とは>
以下の要件をいずれも満たした者をいうとされています(「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」平19.10.1基発1001016・職発1001002・能発1001001・雇児発1001002)。
- 期間の定めのない労働契約により使用される者、または期間の定めのある労働契約により1年以上使用される予定の者・1年以上引き続き使用されている者
- 1週間の所定労働時間が、その事業場の同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上
ただし、1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3未満であっても、(1)に該当し、1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者のおおむね2分の1以上である者については、一般健康診断を行うことが望ましいとされています。
関係法令
- 労働安全衛生法第66条1項
- 労働安全衛生法施行規則第44条1項
通達
リーフレット等
※本記事に掲載しておりますURLは、記事公開時点の情報に基づいております。時間の経過に伴うサイトの更新により、リンク切れが生じる場合がございます。あらかじめご了承ください。
なお厚生労働省のリンク先ページが移動・削除されている場合、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」のページに過去の資料(アーカイブ)として掲載されている旨の案内が表示されることがあります。その場合は、案内先より過去の資料をご参照ください。
02.一般健康診断
安衛法66条1項は「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない」と定めています。これが「一般健康診断」と呼ばれるものです。この規定を受けて、安衛法施行規則43条以下に事業者が行うべき具体的な健康診断が規定されています。
| [1]雇入れ時の健康診断(安衛法施行規則第43条) 常時使用する労働者を雇い入れるときには、医師による健康診断を行わなければなりません。ただし、その者が雇入れ前3カ月以内に医師による健康診断を受け、その結果を証する書面を提出した場合は、当該健康診断の項目に相当する項目を省略することができます。 [2]定期健康診断(安衛法施行規則第44条) 常時使用する労働者(特定業務従事者を除く)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行わなければなりません。 [3]特定業務従事者の健康診断(安衛法施行規則第45条) 事業者は、著しく高温・低温等の作業環境や深夜業等、一定の業務に常時従事する労働者に対し、当該業務への配置替えの際および6カ月以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行わなければなりません(胸部エックス線検査および喀痰(かくたん)検査は、1年以内ごとに1回、定期に行えば足ります)。 [4]海外派遣労働者の健康診断(安衛法施行規則第45条の2) 海外へ6カ月以上派遣する場合、派遣前と帰国後に、それぞれ、医師による健康診断を行わなければなりません。 [5]検便による健康診断(安衛法施行規則第47条) 給食の業務に従事する労働者に対し、雇入れの際または当該業務への配置替えの際、検便による健康診断を行わなければなりません。 [1]~[5]のほか、特殊な健康診断があります。代表的なものは、以下を参照してください。 1.歯科医師による健康診断(安衛法第66条第3項、安衛令第22条3項、安衛法施行規則第48条) 塩酸、硝酸、硫酸等、歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務に常時従事する労働者は、その業務の区分に応じ、雇入れまたは当該業務への配置替えの際およびその後6カ月以内ごとに1回、定期に、歯科医師による健康診断を行わなければなりません。 2.臨時の健康診断(安衛法66条4項、安衛則49条) 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、実施すべき健康診断の項目、健康診断を受けるべき労働者の範囲その他必要な事項を記載した文書によって、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができるとされています。 3.じん肺健康診断 常時粉じん作業に従事する労働者に対して、各種健康診断を行わなければなりません。具体的には、就業時健康診断(じん肺法7条)、定期健康診断(同法8条)、定期外健康診断(同法9条)、離職時健康診断(同法9条の2)があります。 4.結核健康診断 事業者は、学校、病院、診療所、介護老人保健施設等で業務に従事する者について、定期に結核健康診断を実施しなければなりません(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律53条の2第1項、同法施行令12条1項)。 |
なお、事業者は、一次健康診断における医師の診断の結果に基づき、二次健康診断の対象となる労働者を把握し、当該労働者に対して、二次健康診断の受診を勧奨するとともに、診断区分(異常なし、要観察、要医療等)に関する医師の判定を受けた当該二次健康診断の結果を事業者に提出するよう働きかけることが適当だとされています(指針)。
関係法令
- 労働安全衛生法第66条
- 労働安全衛生法施行規則第43条~第45条、第47条~第49条、第51条~第52条
- 労働安全衛生法施行令第22条3項
- じん肺法第7条、第8条、第9条、第9条の2
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第53条の2第1項
- 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行令12条1項
指針
書式
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03.健康診断実施後に事業者が講ずべき措置
健康診断の結果を受けて、事業者が取るべき具体的な取り組みは以下のとおりです。
| [1]健康診断の結果の記録(安衛法66条の3) 健康診断の結果は記録しておかなければなりません。一般健康診断の場合、健康診断個人票(様式第5号)を作成し、5年間保存することが義務づけられています(安衛則51条)。なお、事業者が健康診断個人票の作成・保存義務を怠った場合は、罰則の対象となります(安衛法120条)。 [2]労働基準監督署長への報告(安衛則52条) 常時50人以上の労働者を使用する事業場で定期健康診断または特定業務従事者の健康診断を行ったときは、遅滞なく定期健康診断結果報告書(様式第6号)を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。また、安衛則第48条の歯科医師による定期健康診断を行ったときは、事業場の労働者数にかかわらず、有害な業務に係る歯科健康診断結果報告書(様式第6号の2)を提出する必要があります。 [3]医師等からの意見聴取(安衛法66条の4、安衛則51条の2) 健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者の健康を保持するために必要な措置について、原則として健康診断を行った日から3カ月以内に、医師または歯科医師の意見を聴き、これを健康診断個人票へ記載しなければなりません。なお、安衛則51条の2では、意見聴取の時期と聴取した意見の健康診断個人票への記載を定めています。 [4]一般健康診断実施後の措置(安衛法66条の5) 一般健康診断の有所見者について、医師の意見を勘案し、必要に応じて、作業の転換、労働時間の短縮等の就業上の措置を講ずる必要があります。 [5]一般健康診断の結果の労働者への通知(安衛法66条の6) 一般健康診断結果を労働者へ確実に通知する必要があります。 [6]一般健康診断の結果に基づく保健指導(安衛法66条の7) 一般健康診断の有所見者に対して、医師等による生活改善、運動等の保健指導を行うとともに、労働者自身も保健指導を利用してその健康の保持に自ら努めるよう、労働者に働き掛けます(努力義務)。 |
関係法令
- 労働安全衛生法第66条、第66条の4、第66条の5、第66条の6、第66条の7
- 労働安全衛生法施行規則第51条、第51条の2、第52条
書式
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04.長時間労働者に対する医師による面接指導
事業者は、1月当たりの時間外・休日労働時間が80時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合、医師による面接指導を行わなければなりません(一定期間内に面接指導を受け、医師が不要と認めた者を除きます)。事業者は、タイムカード、パーソナルコンピュータ等の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により労働時間の状況を把握し、その記録を3年間保存しなければなりません。また、毎月1回以上、一定の期日を定めて時間外・休日労働時間を算定し、1月当たり80時間を超えた労働者に対しては、速やかにその時間に関する情報を通知しなければなりません。
※研究開発業務従事者については、月100時間を超える時間外・休日労働を行った場合、高度プロフェッショナル制度の対象労働者については、1週間当たり40時間を超える健康管理時間が月100時間を超えた場合、労働者からの申出の有無にかかわらず、医師による面接指導が必要です。
「疲労の蓄積が認められる労働者」という点に関し、面接指導は労働者の申出により、遅滞なく行わなければならないとされています。産業医は要件を満たす労働者に対し申出を行うよう勧奨することができます。
事業者は、面接指導の結果に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、実施後遅滞なく医師の意見を聴かなければなりません。また、面接指導の結果の記録を作成し、5年間保存する必要があります。
記録に記載すべき事項は「医師の意見」および以下の通りです。
| ①実施年月日 ②当該労働者の氏名 ③面接指導を行った医師の氏名 ④当該労働者の疲労の蓄積の状況 ⑤当該労働者の心身の状況 |
また、事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければなりません。
※高度プロフェッショナル制度の場合は「就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置」について「職務内容の変更、有給休暇の付与、健康管理時間が短縮されるための配慮等」と読み替えます。
なお、面接指導の要件を満たさない者であっても、健康への配慮が必要なものについては、準じた措置を講ずるように努めなければなりません。
リーフレット等
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05.ストレスチェックとは
ストレスチェックは、2015年から、常時50人以上の労働者を使用する事業場について、労働安全衛生法により事業者に実施が義務付けられています(安衛法第66条の10)。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、労働者数50人未満の事業場にも実施義務が拡大され、2028年4月1日から施行されます。なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックの実施結果を労働基準監督署に報告する必要があります(安衛則第52条の21)。
事業者は、対象となる労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、医師等による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければなりません。検査項目は以下の通りです。
| ・職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目 ・当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目 ・職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目 |
医師等(実施者)は具体的に以下の通りです。
| ・医師 ・保健師 ・検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師 |
<検査結果等の記録の作成等>
事業者は、検査を行った医師等による当該検査の結果の記録の作成の事務及び当該検査の実施の事務に従事した者による当該記録の保存の事務が適切に行われるよう、必要な措置を講じなければなりません(安衛則第52条の11)。
<検査結果の通知>
事業者は、検査を受けた労働者に対し、当該検査を行った医師等から、遅滞なく、当該検査の結果が通知されるようにしなければなりません(安衛則第52条の12)。
<労働者の同意の取得等>
労働者の同意の取得は、書面又は電磁的記録によらなければなりません。事業者は、前項の規定により検査を受けた労働者の同意を得て、当該検査を行った医師等から当該労働者の検査の結果の提供を受けた場合には、当該検査の結果に基づき、当該検査の結果の記録を作成して、これを5年間保存しなければなりません(安衛則第52条の13)。
<検査結果の集団ごとの分析等>
事業者は、検査を行った場合は、当該検査を行った医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めなければなりません。事業者は、前項の分析の結果を勘案し、その必要があると認めるときは、当該集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならないとされています(安衛則第52条の14)。
関係法令
- 労働安全衛生法第66条の10
- 労働安全衛生法施行規則第52条の11、第52条の12、第52条の13、第52条の14、第52条の21
リーフレット等
書式
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