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1on1ミーティングについて再考する

1on1ミーティングについて再考する

コラム

公開日

多田国際コンサルティング株式会社

シニアコンサルタント 佐伯克志

はじめに

 「1on1ミーティング」に取り組む企業が増えています。筆者も管理職研修の1コマとして「1on1ミーティング」を取り上げて欲しいというご要望をいただく機会が増えてきました。


 「1on1ミーティング」は、2017年頃に「ヤフーの1on1」(本間浩輔著 ダイヤモンド社)が出版されたころから注目されるようになり、コロナ禍でのリモートワークの拡大に伴い、コミュニケーション不足を補うために多くの企業で導入が進みました。
 リクルートマネジメントの2022年1月時点の調査によると、約6割の組織で「1on1ミーティング」が導入されており、従業員数の多い企業ほど導入率が高くなる傾向にあります。


 このように導入が進む一方で、「導入してみたものの、思うような成果が出ていない」という意見も少なくありません。図表1は、過去半年間に「1on1コミュニケーション」を経験した部下に対して、満足度を尋ねたものです。これによると52.7%が「満足」している一方で、47.3%が、「不満・どちらともいえない」と回答しています。この違いはなぜ発生するのでしょうか。
 今回は、「1on1コミュニケーション」について皆さんと再考したいと思います。


図表1. 部下の1on1コミュニケーションに対する満足度

資料:「部下の成長支援を目的とした1on1ミーティングに関する定量調査」株式会社パーソル総合研究所

1. 目的を明確にしているか

皆さんの組織では、どのような目的のために「1on1ミーティング」を導入していますか。「離職防止」ですか、それとも「人材育成」や「キャリア形成」のためでしょうか。あるいは、「心理的安全性の確保」や「エンゲージメントの強化」ということもあるかもしれません。中には、「人事評価の納得感向上」を目的としている組織を見かけることもあります(図表2)。
 「1on1ミーティング」とは、そもそも「上司と部下が1対1で行うミーティング」であり、対話を繰り返すことにより、上司と部下が情報を共有し、相互理解を深めるためのコミュニケーション手法です。
 残念ながら、ただ「1on1ミーティング」を導入するだけで、人材育成やキャリア形成支援につながるわけではありません。
 それでは、導入にあたって設定した目標を実現するためには、どのようなことに取り組む必要があるのでしょうか。

図表2. 1on1コミュニケーションの導入目的

導入目的解説
悩みや課題の早期発見(離職防止)業務上のトラブルや精神的ストレスを早期に把握し、問題の長期化や突然の離職を防止する。
信頼関係の構築定期的な対話により、心理的安全性を高め、上司と部下の相互理解を深め、信頼関係を構築する。
部下の育成・自立支援業務の振り返りと内省を促し、自ら考えて行動できる自律的な人材への成長を支援する。
エンゲージメントの強化組織のビジョンへの理解を深め、職場への愛着や組織に対する貢献意欲を高める。
キャリア開発の支援部下の中長期的なキャリアビジョンについて話し合い、目指す姿に必要なスキルの獲得や経験を支援する。
(人事)評価に対する納得度の向上評価基準に対する認識のずれを減らす、評価のもととなる行動事実を相互に確認することにより、評価の納得感を高める。
モチベーションの向上日ごろの貢献に対するタイムリーな承認や適切なフィードバック、アドバイスにより、働く意欲を高める。

出典:当社にて作成

2. 上司・部下双方が目的を理解・共有しているか

 皆さんの組織では、「1on1ミーティング」の目的について、関係者にどのように周知していますか。あるいは、関係者がどの程度まで理解していますか。
 周知の方法としては、上司である管理職を対象として数時間程度の説明会を開催する一方で、一般社員には社内通達等の文書で伝えている程度というところが多いようです。
 「1on1ミーティング」は、ほとんどの組織にとってはじめての取り組みです。このため、残念ながらこの程度では上司・部下双方で多様な解釈がなされてしまい、正確な理解につながりません。
 その結果「忙しいのにわざわざ時間を作らなくても、普段の業務報告や仕事の合間のコミュニケーションで十分」との誤解をうんでしまい、現場では「やった」という実績作りが行われ、結果的に上司部下の双方から「『1on1ミーティング』は無駄な時間」と認識され、人事部門が設定した目的とは程遠い状況に陥ってしまいます。


 「1on1ミーティング」は、双方向のコミュニケーションです。目的を達成するためには、上司と部下の双方が目的を理解し、実現に向けて協力して取り組む必要があります。
 人事部門としては、「(上司・部下双方が)目的を理解・共有し、実現のために取り組んでいる」というゴールを設定し、そのために必要な施策を展開する必要があります。
 そこで、上司に対しては部下の主体性や自律的な行動を促すためには、従来の上司起点のコミュニケーションだけではなく、部下を主役とした新たなコミュニケーションが必要であること。この新たなコミュニケーションである「部下の意見や考えをじっくりと聴く場」「部下とともに考える場」として、「1on1ミーティング」があることをさまざまな機会を通して伝えます。


 一方、部下に対しては、「1on1ミーティング」は部下が主役の時間であること。日ごろ悩んでいる事やもやもやしていることについて、上司とともに考える場であることを伝えます。
 こうした情報提供だけでは十分とは言えません。さらに定期的にアンケート調査やヒアリング調査、「1on1ミーティング」の実施記録等を通したモニタリングにより、到達状況を確認する必要があります。

3. 運用ルール等の「型(かた)」を用意しているか

 繰り返しますが「1on1ミーティング」は、組織にとってはじめての取り組みです。そのため身近にモデルとなる事例もなく、「どうやればよいのか」を誰も知りません。
ましてや目的が「人材育成やキャリア形成」「人事評価の納得度の向上」という難易度の高いものであれば、そのために「どうやればよいのか」を最初からわかっている上司や部下はほとんどいません。
 新しいことに取り組むにあたっては、まずは「型(かた)」から入る必要があります。そのためには「頻度」「テーマ」「ながれ」「NGな言動」「推奨するキーワード」といったものを設定し、これに従って進めてもらうようにします。
 この場合、よく上司の側だけに「型(かた)」を設定しがちですが、部下の側にも「テーマ設定」や「事前準備」や「NGな言動」といったことを設定する必要があります。
 さらに、目的の実現に即した要素も必要となります。汎用性のある「型(かた)」のほとんどは、「状況把握」や「信頼構築」といったベーシックな目的のものばかりです。やはり、自社の設定した目的を実現するという視点で、自社としての「型(かた)」を整えていくことが求められます。


 筆者の経験からは、特に「推奨するキーワード」が有効だと考えています。上司、部下が話を進めるためのヒントのようなものです。具体的には「背景」「いやなこと」「うれしいこと」「振返り」「整理」「未来」「過去」「前と後」「深堀り」といったものです。こうしたキーワードを「1on1ミーティング」の中で活用することで、上司と部下が常に共通の意識をもって、目的を実現できるような対話を進めることをサポートするのです。

4. 上司が「話す」から「聴く」へ転換できるか

 筆者は、「1on1ミーティング」の研修において、参加者同士でロールプレーイングに取り組んでもらうことがあります。
 あらかじめ「目的」や「進め方」「留意点」について解説したうえ、ロールプレーイングをスタートしているのに、2~3分後には、上司役の参加者がアドバイスをはじめ、一方的に話をする場面をたくさん見かけます。
 そして、「1on1ミーティング」は部下の話を聞くことに徹してくださいと伝えても、「指示やアドバイスをしない上司は部下から信頼されない」といった意見や質問が出てくるのです。


 これは、普段のコミュニケーションにおいて「上司が、部下に対して指示やアドバイスをする」というスタイルが染みついており、「聴く」ことに慣れていないことが大きな理由です。
 何も上司側だけの問題ではありません。部下の方も指示やアドバイスを求めるという普段の業務上のコミュニケーションのスタイルを「1on1ミーティング」に持ち込んでしまうということもあるのです。
こうした状況を打開するためには、先ほどの「型(かた)」だけではなく、上司に対して「1on1ミーティング」のための聴き方を習得させる必要があります。

5. 「体験」や「見せる」ことの重要性

 そのためには「理想と現状のギャップを認識」し「これを埋めるための取り組みを促す」ことが必要です。
 理想と現実のギャップを認識させるためには、優れた「1on1ミーティング」を見せる、あるいは優れた「1on1ミーティング」を部下の立場で体験することです。特に部下として体験することは、「上司の言動が、部下の思考や言動にどのように影響しているのか」を理解することに役立ちます。
 次に、上司役として「1on1ミーティング」を体験することにより、日常のコミュニケーションとは全く異なること。そして「聴く」ことがいかに難しいかを自覚してもらうのです。このようにして、ゴールとしての「優れた事例を経験」し、「今の自分には難しい」ということを腹落ちさせることにより、「ギャップをどう埋めていくか、そのために何をする必要があるのか」を主体的に考えるためのきっかけを作るのです。

おわりに

 ビジネス環境の変化が激しくなればなるほど、部下一人一人が主体的に考えて業務に取り組むことがより重要になります。そのためには「指示型」のリーダーシップから「支援型」のリーダーシップへの転換が求められます。
 「1on1ミーティング」を通して、「上手に話せる」上司が、「上手に聴く」ことができるようになることは、業務におけるリーダーシップの幅を広げることにつながるのです。


 今回は、「1on1ミーティング」について皆さんと考えてまいりました。本日解説しました内容をもとに、自社の取り組みを振り返り、改善に取り組んでみてください。

多田国際コンサルティング株式会社では、豊富な労務知識とコンサルティング実績に基づき、各企業の状況に最適化された人事諸制度の設計・運用をご支援しております。今回の取り上げましたように、「1on1ミーティング」といった人事諸制度の導入や改善に取り組みたいという場合は、お気軽にお問合せ下さい。