トップ 人事労務-コラム コラム 【現役産業医が解説!】休職・復職は制度で差がつく(第1回) 休職者一人で会社が失うもの――診断書が届いた日、会社は何をすべきか

【現役産業医が解説!】休職・復職は制度で差がつく(第1回) 休職者一人で会社が失うもの――診断書が届いた日、会社は何をすべきか

【現役産業医が解説!】休職・復職は制度で差がつく(第1回) 休職者一人で会社が失うもの――診断書が届いた日、会社は何をすべきか

コラム

公開日

Actwith株式会社

産業医 大林知華子

厚生労働省の「令和6年労働安全衛生調査」では、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者がいた事業所は10.2%、休業または退職した労働者がいた事業所は12.8%でした。令和6年度の精神障害による労災支給決定件数は1,055件と過去最多を更新しました。2026年4月からは「治療と就業の両立支援」への取り組みも事業主の努力義務となり、社員の休職は一部の会社だけの問題ではありません。

私は精神科クリニックで患者さんの休職診断書を書く一方、産業医として、その診断書を受け取った会社から相談を受けています。両方の立場から感じるのは、会社ごとの差が出るのは「休職者が出るかどうか」ではなく、その後の対応です。

差が出るのは、診断書が届いたあとに誰が何をするかが、あらかじめ決まっているかどうかです。本連載では2回に分け、前半では休職の「入口」、後半では復職の「出口」を考えます。

「人材育成」を目的としているのに、「自己評価」を実施していない、あるいは身近な上司である一次評価者がフィードバック役になっていないということはありませんか。

私は、約30年間にわたりたくさんの企業の人事制度の整備および運用状況を確認してまいりましたが、その多くが、このように目的と制度あるいは運用が一致しておらず、本来の目的を実現できていません。

そこで今回は、「目的」を起点として人事評価制度について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

1.休職者一人で、会社が失うのは「人手」だけではない

社員が一人休職すると、傷病手当金の手続き、代替要員、周囲の残業などの「見えるコスト」が生じます。しかし実際には、仕事を引き受けた同僚や上司の疲弊、人事や管理職が対応を一から相談する時間といった「見えないコスト」も大きくなります。

ルールがない会社ほど、その場の判断が「前例」になり、次のケースとの公平性にも悩みます。担当者ごとに対応が変われば、本人だけでなく人事側の負担も増えます。

さらに、うつ病で休職し復職した社員540名を追跡した国内研究では、復職後1年で28.3%、5年で47.1%が再び休職していました。再休職も見据え、休職から復職、その後のフォローまでを制度として設計しておくことが重要です。

つまり、休職者がいないときにルールを決めておくことが、本人と職場の双方を守ります。

2.診断書は、会社が対応を始める重要なサイン

「適応障害のため、1か月の自宅療養を要する」。一枚の診断書が届いた日から、会社の具体的な対応が始まります。

安全配慮義務は、診断書が届いた日に突然発生するものではありません。労働契約法第5条により、使用者には労働者が心身の安全を確保しながら働けるよう配慮することが求められます。一方、診断書は、会社が健康上の問題を具体的に認識する重要なきっかけです。

実務で危ういのは、診断書を受け取ったまま対応が曖昧になることです。有給休暇でつなぎ、休職か欠勤か分からないまま時間がたつ。上司が個人の携帯で連絡を続け、人事には情報が届いていない。後から揉めやすいのは、この状態です。

本人に何を説明し、誰がどの頻度で連絡し、必要な対応をどう検討したのか。経過を残しておけば、担当者が変わっても同じ方針で支援できます。

3.一行の診断書に、会社が知りたいことが全部書かれていない理由

人事の方から「一行しか書いていない診断書で何を判断すればよいのか」と聞かれることがありますが、一行程度の診断書は珍しくありません。

診断書は本人が会社へ提出する書類で、詳細な症状を書けばプライバシーに深く関わります。また主治医は、患者さんの話からしか職場を知ることができません。そのため「休養を要する」とは書けても、「この業務なら可能」とまでは書きにくいのです。

診断書を見るときは、二つ押さえておきたいことがあります。

一つ目は、病名はその時点で医学的に判断できる範囲で書かれていることです。「適応障害」は「軽い」という意味でも、「会社に原因がある」と主治医が認定したという意味でもありません。

二つ目は、療養期間は「治る予定日」ではないことです。「まず1か月休み、その時点で改めて評価する」という区切りとして記載されることも多く、診断書の「1か月」は主治医の現時点での見立てです。

産業医は、診断書を「命令」ではなく「情報」として読みます。就業の可否を最終的に判断するのは会社であり、産業医はそのための医学的意見を述べます。

診断書は、会社の休職対応の「答え」ではありません。次に何を確認するかを考えるための入口です。

4.診断書が届いたら確認したい5つのこと

診断書が届いてから、早い段階で確認したいことを五つに分けます。

(1)就業規則の休職規定を確認する

まず確認するのは病名ではなく、会社のルールです。休職発令の要件、休職期間、同一・類似傷病の通算規定、期間満了時の取り扱いを確認します。労働政策研究・研修機構の調査では、病気休職制度がある企業は91.9%ですが、そのうち就業規則等に規定されているのは77.7%でした。規定の整備は顧問の社労士の領域です。休職者が出る前に一度見直しておくことをお勧めします。

(2)本人に休職中の流れを説明する

休職期間、給与や傷病手当金、連絡方法、復職までのおおまかな流れは、口頭だけでなく書面で渡します。抑うつ状態では集中力や記憶力が落ち、説明があとに残りにくいことがあります。本人が不安なのは「この先どうなるのか」が見えないことです。入口で出口を示しておくと、療養に専念しやすくなります。

(3)会社からの連絡窓口を一本化する

上司、人事、同僚からの連絡は、一つ一つは善意でも、療養中の本人には「早く戻らなければ」という圧力になることがあります。窓口を一人に決め、連絡の頻度と手段を本人と合意します。大切なのは「連絡しない」ことではなく、「決まった連絡だけをする」ことです。

(4)産業医等の産業保健スタッフと連携する

休職開始時点で産業医に報告し、休職中の面談の要否を決めます。復職直前に初めて産業医が関わると、経過を知らないまま判断を迫られます。あわせて「社内で誰が何を知るか」を決め、本人に説明しておきます。

(5)必要なら、本人の同意を得て主治医に確認する

診断書だけでは情報が足りない場合、本人の同意を得たうえで、産業医を通すか会社所定の様式で主治医に意見を求める方法があります。その際は質問だけでなく、「短時間勤務は3か月利用できる」「在宅勤務は週2日まで可能」など会社側の情報を先に伝えることが重要です。主治医も実際の仕事を想定して意見を書きやすくなります。

セルフチェック
□ 診断書を受け取ったとき、誰が何をするかを書いた手順書がある
□ 就業規則の休職規定に、期間の上限、通算規定、復職判定の手続きが書かれている
□ 休職者との連絡窓口は一人に決まっている
□ 主治医との情報連携について、本人の同意を取る様式がある
□ 復職までの流れを、休職の開始時に本人へ文書で渡している

三つ以上に印が付かない場合、次に休職者が出たとき、本人だけでなく人事や管理職も、その場で判断を迫られる可能性があります。

5.制度があるから、社員は「この先」が見える

休職のルールを細かく決めることを「病気になった社員に冷たい」と感じる方がいるかもしれません。私はむしろ逆だと考えています。復職までの手順が最初から分かっていれば、本人は余計な不安を抱えず療養に専念し、人事担当者もその場の感情だけで判断せずに済みます。

制度があることは、社員との距離をつくることではありません。社員に「この先どうなるのか」を見えるようにすることです。

主治医は治療の専門家、産業医は就業の専門家、会社は雇用の責任者です。この三者の役割を診断書が届いた初日から分けておく。それが、本人、周囲の社員、そして会社を守る休職制度の第一歩です。

今回は休職の「入口」を取り上げました。次回は休職の「出口」です。主治医の「復職可」と産業医判断がずれる理由、復職判定基準、試し出勤、復職後の就業配慮を、再休職を防ぐ制度設計の観点から考えます。

多田国際コンサルティングより

休職・復職への対応に課題を感じながらも、思うように取り組みを進められていない企業は少なくないのではないでしょうか。多田国際コンサルティング株式会社では、メンタルヘルスに関する社内の理解促進、研修の充実、管理職への指導支援などを通じて、企業の取り組みを支援しています。既存の研修内容の見直しも含め、どうぞお気軽にご相談ください。

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【出典】

厚生労働省「令和6年 労働安全衛生調査(実態調査)」

厚生労働省「令和6年度 過労死等の労災補償状況」

厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)

厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

労働政策研究・研修機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」(調査シリーズNo.112、2013年)

Endo M, Haruyama Y, Muto T, et al. Recurrence of sickness absence due to depression after returning to work at a Japanese IT company. Industrial Health 2013;51(2):165-171.

労働契約法第5条

※本稿は一般的な考え方を紹介するものであり、具体的な労務対応については、個々の事情や就業規則等に応じた検討が必要です。