コラム
公開日
多田国際コンサルティング株式会社
シニアコンサルタント 佐伯克志
はじめに
貴社では何のために人事評価を行っていますか。「査定(昇給や賞与決定)のため」ですか。それとも「(経営戦略に資する)人材の育成のため」でしょうか。
「査定」を目的としているのに、評価項目が定性的・概念的になっていませんか。部下のパフォーマンスに違いがあるにも関わらず、低い評価をつけられた社員のモチベーション低下を危惧するあまり、評価が中心化傾向に陥っていませんか。
「人材育成」を目的としているのに、「自己評価」を実施していない、あるいは身近な上司である一次評価者がフィードバック役になっていないということはありませんか。
私は、約30年間にわたりたくさんの企業の人事制度の整備および運用状況を確認してまいりましたが、その多くが、このように目的と制度あるいは運用が一致しておらず、本来の目的を実現できていません。
そこで今回は、「目的」を起点として人事評価制度について、皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
1.人事評価の目的は何か
はじめに示した通り、人事評価は目的に応じて整備すべき機能が異なります。このため、人事評価制度の整備や見直しにあたっては、まずは目的を明確にします。
主な目的と整備すべき機能について図表1に整理してみました。例えば、「査定」の場合は、個別の評価項目・評価基準を定義するとともに、これらを昇給や賞与の決定につなげるための数値化のプロセスが必要となります。「人材育成」の場合は、振り返りや共有、育成につなげるプロセスが必要です。
「アセスメント(役職登用や昇格)」の場合は、評価結果を昇格や役職登用(選抜)へ展開するための仕組みが必要です。また、「事業戦略・組織目標の浸透」の場合についても、経営理念の評価項目への展開や事業計画を前提とした目標管理制度の整備が求められます。
目的の検討にあたっては、「目的が増えるほど評価の仕組みが複雑になり、運用が大変になる」「企業文化や実態と大きく乖離するような制度は、運用で頓挫する可能性が高い」という点を意識し、必要な機能が本当に整備、運用できるのかを吟味したうえで目的を決定する必要があります。
図表1. 評価制度の目的と整備すべき機能
| 人事制度の目的 | 整備すべき機能 |
| 処遇の決定(査定) | ・評価項目・評価基準の定義 ・評価項目・評価基準に基づく数値化および集計プロセスの整備 ・評価項目に対するウエイトの設定 ・評価調整の仕組み ・昇給(給与)、賞与決定への評価結果の反映ルールの整備 |
| 人材育成 | ・(人材育成に活かせる)評価項目の定義 ・(被評価者自身による)振り返り ・(人材育成を担う)上司と部下による面談(評価結果の共有) ・評価結果の人材育成への展開 |
| アセスメント | ・アセスメントに適した評価項目の定義 ・昇格基準・役職登用基準の整備 ・タレントレビュー(人材棚卸し)の仕組み |
| 理念・戦略浸透 | ・経営理念・事業戦略からの評価項目への落とし込み ・目標管理制度の導入 ・主に数値目標の確認と取組の見直しを目的とした期中レビュー |
出典:当社にて作成
2.目的に適した評価要素の特定
目的を明確にしたら、次に評価の対象とする要素(評価要素)を特定し、特定した評価要素に基づいて評価方法を検討します。
主な評価要素として、「勤務態度」「(発揮)能力」「行動」「成果」の4つがあります(図表2)。
図表2. 評価要素
| 評価要素 | 勤務態度 (ポテンシャル) | (発揮)能力 (インプット) | 行動 (スループット) | 成果 (アウトプット) |
| 定義 | 仕事に取り組む際の姿勢、態度、意欲等、人物的特性 | 職務遂行上必要となる知識、技能、技術の発揮度合いや習熟度 | 仕事の成果を創出する過程において、最適な手段を踏み、再現性のある行動 | 「与えられた責任を果たしたか」「期待されたアウトプットを達成したか」等 |
| メリット | チームワークやモラールが高まり、一体感が醸成され、組織力が高まる | 能力の習熟を促進し、安定的にキャリア開発を行うことが可能 | 成果に繋がる適切な行動を促進し、インプットとアウトプットをバランス良く評価できる | 事業計画等への関心や成果に対するコミットメントが強まる |
| デメリット | 他の評価と比べて目に見えにくく、評価者の主観の影響を受けやすい。 | 業務内容により求める能力に差異があるため全社共通での評価が難しく、部門別評価では部門間のレベル合わせが難しい。 | 評価項目が現行業務の分析から作成されるため、臨機応変な業務の変化や組織改革の阻害要因となる場合がある。 | 結果重視のあまり、チームワークやモラールが損なわれる場合がある。 |
出典:当社にて作成
「勤務態度」は、仕事に対する取り組み姿勢としての協調性やルールの遵守、意欲や熱意といったことが該当します。「(発揮)能力」は、職務を遂行する上で必要な知識やスキル、能力のことです。発揮としているのは、「能力を有しているだろう」という憶測ではなく、実際に発揮することを求めるためです。「行動」は、成果につながる業務上の行動を評価対象とし、「成果」は、仕事における定量・定性的な目標の到達状況を評価対象とします。
目的とこれら評価要素との関係を整理すると図表3に示す通りです。処遇の決定には、「成果」あるいは成果につながる「(発揮)能力」「行動」の評価が適しています。具体的には、賞与の決定には「成果」、昇給については成果につながる役割の履行としての「(発揮)能力」「行動」が適しています。
人材育成については、会社として求める状況を示し、現状とのギャップを認識する必要があるため、評価対象としては「(発揮)能力」「行動」が適しています。アセスメントの場合も人材育成と同様に、昇格や役職登用の際の適性を判断するための「(発揮)能力」「行動」を評価します。
理念・戦略浸透については、会社が求める理念・戦略に関連した態度や行動を示す必要があることから、「勤務態度」や「行動」を評価対象とします。
図表3. 評価要素と評価方法の関係
| 目的 / 対象 | 勤務態度 | (発揮)能力 | 行動 | 成果 |
| 処遇の決定 | △ | ○ 能力による貢献 | ○ 役割による貢献 | ◎ 成果の配分 |
| 人材育成 | ○ 態度の修正 | ◎ ギャップの可視化 | ◎ 行動の修正 | ○ 未達からの学び |
| アセスメント | ○ 適した態度 | ◎ 適した能力 | ◎ 適した行動 | ○ |
| 理念・戦略浸透 | ◎ 理念に基づく態度 | △ | ◎ 理念に基づく行動 | △ |
出典:当社にて作成
3.評価方法の決定
評価の対象が決まったら、次は評価方法の選択です。評価方法には様々なものがありますが、大きく分類すると「評定尺度法」「目標管理法」「360度評価法」の3つがあります(図表4)。
能力や行動の評価の場合は、具体的にどのような能力や行動についてどの程度できているのか(できていないのか)を評価する必要があります。そのためには「評定尺度法」が適しています。
人事評価は直属の上司が評価するのが一般的です。「360度評価法」は、評価者が上司だけでなく同僚や後輩まで広がったものと考えていただくとわかりやすいでしょう。この方法は、「勤務態度」、特に協調性といった項目のように、上司以外からの視点でも評価することが望ましい場合に適しています。
成果については、個人ごとに期の初めに目標を設定し、期末に目標に対してどの程度到達したのかを確認するため「目標管理法」が用いられます。
図表4. 人事評価方法と適した評価要素
| 名称 | 評定尺度法 | 目標管理法 | 360度評価法 |
| 概要 | 評価項目として到達状況を示し、到達度合いとして3〜5段階を設定し、現状をこの数値から選択する方法。 | 期初に定性・定量の目標を設定し、到達状況と到達に向けた取り組み状況を確認する方法。 | 上司、部下といった異なる利害関係者が共通の項目について3〜5程度の段階で評価する方法。 |
| 特徴 | 被評価者の行動事実をもとに評価することで客観性を確保するが、評価者の主観の影響を受ける可能性が高い。 | 社員ごとに目標を設定することから目標の作成や水準のすり合わせが難しく、他の評価と比較して形骸化しやすい。 | 一人の被評価者に対する評価者の人数が増えることから、評価項目を少なくする等の配慮が必要である。 |
| 評価者 | 上司 | 上司 | 上司、部下、同僚・後輩等 |
| 適した評価対象 | 勤務態度、能力、行動 | 成果 | 勤務態度、行動 |
出典:当社にて作成
4. 評価項目と評価基準の設定
評定尺度法と360度評価法では、「評価項目(具体的にどんな発揮能力や行動を評価するのか)」と、「評価基準(実践できている程度)」を設定する必要があります。
評価項目の設計にあたっては、評価要素ごとに、会社として社員に対して求めることを具体化します。
例えば「勤務態度」としては、例えば「ともに働く人の状況をよく観察し、自分にできることを見つけて率先して取り組む」といった項目を設定します。
また「能力」であれば、「〇〇の機械操作ができる」「〇〇工程を組み替えることができる」といった特定の作業に限定した項目とする場合もあれば、「難度の高い案件・対象者に対応できる」といった総合的な能力を求める項目とする場合もあります。
等級制度が整備されている会社であれば、等級別に求める人材像や主な期待役割を定義します。これに対して、例えば行動であれば「人材育成」「マネジメント」「チームワーク」というように分類(カテゴリー)を定めておき、等級×分類の組み合わせの中で具体化していくことをお勧めします(図表5)。こうすることにより、等級で定めている期待役割等の違いに応じた評価項目を設定することができます。
図表5. 等級別の評価項目の設計イメージ
| ①等級別に「求める人材像」「期待・役割」を設定 ↓ ②評価カテゴリーの設定(例:人材育成、マネジメント、業務遂行等) ↓ ③等級×カテゴリーで具体的な「評価項目」を定義 |
出典:当社にて作成
次に「評価基準」を整備します。「評価基準」とは、これまで検討してきた評価項目に対する本人の出来不出来の程度を示すものです。3〜7段階で設定することが多く、例えば3段階であれば「できている」「時々できたりできなかったりする」「できていない」といった基準になります。
評価基準を設定する際に留意すべきことは、評価対象者(あるいは被評価者)の日々の行動をもとに評価をしたとしても、評価者の主観の影響を受けやすいということです。こうしたことを考慮して、評価基準には実践の「頻度」や「難易度」を活用します。
なお、360度評価法では評価対象者が多くなりがちであることから、評価項目や基準を比較的シンプルにする必要があります。
5. 評価および集計方法の検討
評価結果を「査定」に利用する場合には、個別の評価項目について何らかの方法で集計する必要があります。最も簡単な方法は、あらかじめ評価基準に対して点数を紐づけることで、評価項目ごとに該当する評価基準の点数を算出し、これを単純に合計することで総合点を算出する方法です。
一方で、「勤務態度」「能力」「行動」「成果」といった異なる要素ごとに重みづけを行い、評価項目の点数に重みづけした値を乗じて集計する方法もあります。具体的には、若手社員に対しては「勤務態度」「能力」「行動」と比べて「成果」の重みを低く設定し、逆に管理職については「勤務態度」「能力」と比べて「行動」「成果」の重みを高く設定する、といった違いを設けます。
あるいは、昇給と賞与の違いを示すため、賞与に利用する場合は「成果」の重みづけを高く設定し、昇給に利用する場合は「能力」や「行動」の重みづけを高く設定するといった方法をとることがあります。
6. 評価プロセスの検討
「評価基準に対して関連する行動事実を用いて評価する」というのが評価の原則ですが、定性的であるため評価者の癖(評価エラー)が出やすくなります。また、一人の評価者が適切に評価できる人数には限りがあります。
こうしたことから、「一次評価者を直属の上司」「二次評価者を一次評価者の上司」というように、複数人が評価を行う方法が一般的です。このような段階的評価においては、一次評価者が部下の出来不出来の状況を直接評価する一方(絶対評価)、二次評価者以上には「評価者の癖(エラー)を修正する」とともに、「異なる部門や職種間のバランスをとる(相対化)」という役割があります。二次評価者以上にこうした役割があることを組織として明確にする必要があります。
さらに「人材育成」を目的としている場合には、評価プロセスとして「自己評価」と「フィードバック面談」を導入する必要があります。上司の一方的な指導だけでは、人材育成としては十分ではなく、「自分自身による振り返り」の機会が必要なのです。
また「査定」を目的としている場合には、全社や一定規模の組織として「最終評価」を決定する必要があります。最終評価においては、一人ひとりの出来不出来だけではなく、部門や職種による違いを考慮して決定する必要があります。こうした職種や部門の違いを数値だけで調整するのは非常に困難であるため、一定の部門代表者など権限を有する役職者による会議(評価会議)で協議して決定します。これは部門間の全体調整であり、特定の個人の評価を恣意的に変えることではない点に注意が必要です。
図表6. 評価プロセス
| プロセス | 実施者 | 実施事項 |
| 自己評価 | 被評価者 | 評価項目に対して、対象期間内の自己の行動を振り返る。 |
| 一次評価 | 被評価者の直属の上司 | 評価項目に対して、対象期間内の被評価者の行動をもとに、評価基準に従って評価する。 |
| 二次評価 | 被評価者の一次次評価者の直属の上司 | 一次評価者の評価結果をベースとしつつ、被評価者の対象期間内の行動をもとに基準に従って評価する。二次評価者が統括する部門内における評価のバランスを調整する。 |
| フィードバック | 被評価者の直属の上司 | 一次評価者は、(二次評価者と協議した)評価項目の内容の説明を通して、評価結果を被評価者の成長に活かす。 |
| 評価会議 | 評価会議(役職者・代表者) | 査定等のために、全社的なバランスを考慮して最終評価を決定する。 |
出典:当社にて作成
おわりに
今回は、「目的」を軸とした人事評価制度の設計について解説いたしました。自社の評価制度の目的を改めて確認し、今回ご説明した機能が適切に整備・運用されているかをご確認のうえ、必要に応じて評価制度の見直しに取り組んでみてください。
多田国際コンサルティング株式会社では、豊富な労務知識とコンサルティング実績に基づき、各企業の状況に最適化された人事制度の設計・運用をご支援しております。今回の取り上げましたように、人事評価を見直したいという場合には、お気軽にお問合せ下さい。