コラム
公開日
多田国際コンサルティング株式会社
コンサルタント(元労働基準監督官)
梛木拓弥
1. 厚生労働省の発表
2026年8月19日、厚生労働省は、「時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します」と発表しました。
発表内容の抜粋は、下記のとおりです。

【参考】時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導を見直します
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75454.html
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なお厚生労働省のリンク先ページが移動・削除されている場合、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」のページに過去の資料(アーカイブ)として掲載されている旨の案内が表示されることがあります。その場合は、案内先より過去の資料をご参照ください。
本記事は、本発表について、解説します。
2. 「一律の指導」とは
厚生労働省の発表において、「時間外・休日労働時間数のみに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導を見直し」との文言があります。
これまでは、適正な36協定の締結及び届出により、法令違反が生じていない場合でも、1か月45時間を超える時間外・休日労働があることのみをもって、1か月45時間以内への削減に努めるよう指導を行っていましたが、これが見直されることとなりました。
3. 健康及び福祉を確保するための措置(健康福祉確保措置)の重点的確認
厚生労働省の発表において、「各事業場が36協定で定める健康及び福祉を確保するための措置の実施状況を重点的に確認」との文言があります。
健康福祉確保措置の具体的な内容については、指針において、定められており、以下の9つのうちから協定することが望ましいものとされています。
一 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。
二 法第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について一定回数以内とすること。
三 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
四 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
五 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
六 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
七 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
八 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
九 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
【参考】労働基準法第三十六条第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針
https://www.mhlw.go.jp/content/000903652.pdf
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各事業場においても、36協定の締結にあたって、いずれかの項目を選択し、実施しているものと考えられます。
厚生労働省の発表において、「過重労働による健康障害が生じるおそれが高い場合には、引き続き必要な指導を行います。」との文言もあります。従来の指導はもちろんのこと、健康福祉確保措置の実施状況についても、今後は指導の対象となる可能性が高いものと考えられます。
4. 実務上の対応について
自社の36協定の健康福祉確保措置の内容を確認する必要があります。36協定の「特別条項」の有無を確認し、特別条項がある場合、以下の斜線部分が、各事業場の健康福祉確保措置となります。

今後は、限度時間を超える場合は、36協定で定められた健康福祉確保措置が、適切に実施されているか、より意識して確認する必要があります。
また、実施状況に関する記録については、36協定の有効期間中及び有効期間の満了後5年間(当分の間、3年間)保存しなければならないとされています。(労働基準法施行規則第17条第2項、同規則第71条)
5. その他の注意点
本発表による影響はないものと考えられますが、36協定の取扱いにあたって、「過半数代表」についても、注意する必要があります。
「労働基準関係法制研究会報告書」において、過半数代表者について、
(1)過半数代表者の選出が、事業場において適正に行われていない場合がある
(2)過半数代表者の役割を果たすことは労働者にとって負担であり、また、全ての労働者が労使コミュニケーションについての知識・経験を持つわけではないことから、積極的な立候補が得られないことや、立候補者がいて選出されたとしても過半数代表の役割を適切に果たすことが難しい場合が多い
【参考】労働基準関係法制研究会報告書(P.20)
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001370269.pdf
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との課題が指摘されています。
過半数代表者の要件は、以下のとおりです。
(1)労働者の過半数を代表していること
正社員だけでなく、パートやアルバイトなど事業場のすべての労働者の過半数を代表している必要があります。
実務上は、パートやアルバイトを除いて選出し、実質的に過半数を代表していないケースもありますので、注意が必要です。
(2)36協定を締結するための過半数代表者を選出することを明らかにした上で、投票、挙手などにより選出されていること
選出手続は、労働者の過半数がその人の選出を支持していることが明確になる民主的な手続(投票、挙手、労働者による話し合い、持ち回り決議)がとられている必要があります。
実務上は「去年もAさんが過半数代表者だったから、今年も引き続きAさんでお願いします。」といった形で、過半数代表者が選出されているケースがあり、注意が必要です。
なお、民主的な手続の結果、去年の過半数代表者と今年の過半数代表者が同じだったというケースも考えられますが、この場合は、問題ありません。
(3)使用者の意向に基づき選出されたものでないこと
会社が、特定の従業員を過半数代表者として指名し、36協定を締結することはできません。会社の意向によるものではなく、従業員間の民主的な手続で選出されていることが必要です。
(4)管理監督者でないこと
労働基準法上の管理監督者とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」です。一般的な「管理職」と、必ずしも同じ意味ではない点に、注意が必要です。
「管理職」とは、企業内で部下の指導や組織の管理を担う役職者を指し、「課長以上」「部長以上」など、その範囲は企業によって異なります。
労働基準法上の「管理監督者」に該当するかどうかは、役職名だけで判断されるものではなく、職務内容や責任・権限、勤務態様、待遇などの実態に基づいて判断されます。
過半数代表者の選出が適正に行われていない場合、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ても無効となりますので、注意が必要です。
6. まとめ
労基署の時間外・休日労働の指導の見直しについて、解説しました。今回の見直しは、労基署による指導という観点だけでなく、企業の日常的な労務管理の在り方について、改めて確認するきっかけにもなるものと考えられます。
労働時間の把握や年次有給休暇の取得状況管理、36協定の運用状況などは、労基署の調査が入ったときだけ確認すればよいというものではありません。日常の労務管理から実態を確認し、問題があれば早めに改善していくことが重要です。
「指導を受けないための対応」にとどまらず、従業員が安心して働ける職場環境を整えるという視点から、日常の労務管理を見直していきたいものです。
7. おわりに
多田国際コンサルティング株式会社は、東京と大阪に拠点を有し、人的資本経営を多様な側面からサポートしていくコンサルティング・ファームです。グループ企業の多田国際社会保険労務士法人とともに、36協定に関するご相談のみならず、各種規程の作成や給与制度構築、日常のご相談など幅広くサポートをしております。ぜひお気軽にご相談ください。