労働基準法(以下、労基法)第32条の2第1項が定める1か月単位の変形労働時間制は、1か月以内の期間を平均して1週間あたり40時間(特例措置対象事業は44時間)、を超えない限りは、あらかじめ労働日ごとの労働時間を定めておくことで、特定の日に8時間または特定の週に40時間(特例措置対象事業は44時間)を超えて労働させることが可能となる労働時間制です。
特定の週や日に集中的に忙しいといった業態・職種において、繁忙・閑散に合わせて労働時間を柔軟に配分できる反面、法令を正しく理解して管理しなければ未払い賃金が発生する恐れがあります(労基法第37条第1項)。
IPO準備企業で労務監査の指摘が生じやすいのは以下の点です。
□就業規則の整備や労使協定の締結・届出など、導入手続きの不備
□各月における法定労働時間の総枠(上限時間)の超過
□シフト(労働時間・休日)の事前特定と、直前・事後の不適切な変更
□変形労働時間制に対応した、正しい割増賃金(残業代)の計算漏れ・未払い 等
変形労働時間制の導入は、非常に厳格であり、不備があった場合は、変形労働時間制が無効となり、最終的には未払い賃金が表面化する可能性があります。既に、導入している場合は、導入手続き・運用が法定要件を満たしているか、改めて確認しましょう。
01. 導入方法
1か月単位の変形労働時間制を導入する場合は、労使協定または就業規則その他これに準ずるものに以下の事項を定める必要があります(労基法第32条の2第1項)。
定めた内容は、原則として所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります(労基法第32条の2第2項、労基法第89条)。
労使協定を用いて導入する場合は、事業場の規模に関わらず必ず届出が必要です。常時10人未満の事業場であっても届出義務は免除されません。一方で、常時10人未満の事業場が就業規則その他これに準ずる書面に規定して労働者に周知徹底する方法をとった場合のみ、例外的に届出が不要となります。
制度を導入するにあたり、定めるべき具体的な事項は以下の4点です。
| ①対象労働者の範囲 対象となる労働者の範囲を明確にします。なお、範囲に法令上の制限はありません。 ②変形期間および起算日 変形期間の長さと、その起算日を具体的に定めます。なお、変形期間は1か月以内に限られます。 ③労働日および労働日ごとの労働時間 変形期間におけるすべての労働日と、その労働日ごとの労働時間をあらかじめ具体的に定めます。 ④労使協定の有効期間 労使協定によって導入する場合は、協定の有効期間を定める必要があります。なお、労使協定を定める場合、労使協定そのものの有効期間は②の対象期間よりも⻑い期間とする必要があります。1か⽉単位の変形労働時間制を適切に運⽤するためには、 3年以内程度とすることが望ましいとされています。 |
関係法令
- 労働基準法第32条の2
- 労働基準法第89条
リーフレット等
書式
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02.法定労働時間
対象期間における1週間あたりの労働時間が法定労働時間を超えないようにするため、総労働時間を以下の計算式で算出した上限時間以下とする必要があります(労基法第32条の2第1項)。
| 上限時間 = 1週間の法定労働時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7 |
対象期間の暦日数に応じた具体的な上限時間の総枠は、以下の通りです。
| 対象期間の暦日数 | 週40時間 | 特例措置の週44時間 |
| 31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
| 30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
| 29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
| 28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
なお、割増賃金の支払いが必要な時間外労働となる時間は、1日、1週間、対象期間のそれぞれにおいて、以下の順番で判定を行います(労基法第37条第1項)。
| ①1日について あらかじめ8時間を超える労働時間を定めた日はその時間を超えて労働した時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間 ②1週間について あらかじめ40時間、特例措置対象事業場においては44時間を超える労働時間を定めた週はその時間を超えて労働した時間、それ以外の週は40時間、特例措置対象事業場においては44時間を超えて労働した時間。ただし、①で既に時間外労働となった時間は除きます。 ③対象期間について 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間。ただし、①または②で既に時間外労働となった時間は除きます。 |
関係法令
- 労働基準法第32条の2
- 労働基準法第37条
リーフレット等
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03.労働時間の管理方法
1か月単位の変形労働時間制を適用する期間は、シフト表やカレンダーなどによってあらかじめ労働日ごとの始業時刻、終業時刻および労働時間を定め、労働者に周知することが必要となります。このように事前に特定した労働日または労働時間は、使用者の都合によって任意に変更することはできません(昭和63年1月1日 基発第1号、昭和63年3月14日 基発第150号)。
また、本制度を適用した場合であっても、育児や介護を行う者、教育訓練を受ける者など、特別な配慮を要する労働者については、それらに必要な時間を確保できるように配慮しなければなりません。さらに、以下の労働者については、制度の適用が認められない、または制限があるため注意が必要です。
| ①満18歳未満の年少者 原則として変形労働時間制を適用することはできません(労基法第60条第1項)。ただし、義務教育を修了した満15歳以上満18歳未満の者については、1日8時間、1週間48時間を超えない範囲であれば適用が可能となります(労基法第60条第3項)。 ②制度の適用免除を請求した妊産婦 妊産婦にあたる労働者が請求した場合は、1か月単位の変形労働時間制を適用することはできません(労基法第66条第1項)。 |
なお、1か月単位の変形労働時間制を採用している場合であっても、突発的な業務により、1か月以内の一定の期間を平均して週40時間を超えることも想定される場合は、36協定を締結及び届け出が必要です。
関係法令
- 労働基準法第32条の2
- 労働基準法第36条
- 労働基準法第60条
- 労働基準法第66条
通達
- 昭和63年1月1日 基発第1号
- 昭和63年3月14日 基発第150号
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