フレックスタイム制は、一定の清算期間における総労働時間をあらかじめ定め、その範囲内で労働者が日々の始業および終業の時刻を自主的に決定する制度です。柔軟な働き方が可能となる一方、時間外労働の判定や労働時間の清算方法は通常の労働時間制度とは異なります。
制度の導入手続や実際の運用が法令上の要件と合っていない場合、フレックスタイム制としての取扱いが認められないおそれや、未払賃金、36協定の上限超過等につながる可能性があります。そのため、IPO準備企業では制度の規定だけでなく、勤怠システムや実際の勤務実態まで確認することが重要です。
フレックスタイム制に関してIPO準備企業で法令違反(又は労務DD上の指摘)が生じやすいのは以下の点です。
□就業規則・労使協定の内容が法令上の要件を満たしていない
□コアタイム以外にも頻繁に会議があり実質的に始業および終業の時刻が労働者の決定に委ねられていない
□所定休日労働の取り扱いが不明確なため、清算期間における総労働時間に含めるかを適切に管理・清算していない
01.導入方法
<就業規則および労使協定>
フレックスタイム制の導入には以下の手続が必要であり、定めた内容は労働者に周知する必要があります(労働基準法第32条の3第1項、労働基準法第106条第1項)。
(1)就業規則その他これに準ずるものにより、始業および終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めること
(2)労使協定(※1)により、以下の項目に関して定めること
①対象となる労働者の範囲
②清算期間
③清算期間における起算日
④清算期間における総労働時間
⑤標準となる1日の労働時間
⑥コアタイムおよびフレキシブルタイムを設ける場合はその開始および終了の時刻(※2)
コアタイムとは、フレックスタイム制の適用労働者が必ず勤務しなければならない時間帯をいいます。コアタイムは必須ではなく、設定しない運用も可能です。
フレキシブルタイムとは、その時間帯の範囲内で労働者が始業または終業の時刻を選択できる時間帯をいいます。フレキシブルタイムを設定する場合は、開始・終了時刻を労使協定で定めます。
※1 ここでは清算期間を1か月とするフレックスタイム制を対象としています。清算期間が1か月以内の場合、フレックスタイム制に関する労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要はありません。
※2 コアタイムの時間が標準となる1日の労働時間とほぼ同程度になる場合や、フレキシブルタイムの時間帯が極端に短い場合など、労働者が始業および終業の時刻を自由に決定するという制度の趣旨に反する場合には、フレックスタイム制とは認められないため注意が必要です(昭和63年1月1日 基発第1号・婦発第1号)。
また、休憩時間の取扱いにも注意が必要です。フレックスタイム制で労働者の決定に委ねられるのは始業および終業の時刻であり、休憩時間については労働基準法第34条に基づき適切に付与する必要があります。休憩時間帯を労働者の選択に委ねる場合には、就業規則等で休憩時間の長さや取得の方法を明確にしてください。なお、一斉休憩の原則が適用される事業場で、労働者ごとに異なる時間帯に休憩を取得させる場合は、一斉休憩の適用除外に関する労使協定の締結が必要です。
<導入後の注意点>
本来、フレックスタイム制は始業および終業の時刻の双方を労働者の決定に委ねるものです。そのため、始業または終業のどちらか一方のみを労働者の決定に委ねる運用は要件を満たしません。例えば、コアタイムを設定していないにもかかわらず、毎朝一定時刻の定例ミーティングへの参加を義務付けるなど、実質的に始業時刻を指定する運用は、始業時刻を労働者の決定に委ねているとはいえない可能性があります。
また、コアタイムを設定している場合でも、コアタイム外の時間帯に一律にミーティング等への参加を義務付けるなど、始業または終業の時刻を実質的に指定する運用とならないよう注意が必要です。
関係法令
- 労働基準法第32条の3
- 労働基準法第106条
- 労働基準法第120条
- 労働基準法施行規則第12条の3
- 労働基準法第34条
通達
リーフレット等
※本記事に掲載しておりますURLは、記事公開時点の情報に基づいております。時間の経過に伴うサイトの更新により、リンク切れが生じる場合がございます。あらかじめご了承ください。
なお厚生労働省のリンク先ページが移動・削除されている場合、「国立国会図書館インターネット資料収集保存事業(WARP)」のページに過去の資料(アーカイブ)として掲載されている旨の案内が表示されることがあります。その場合は、案内先より過去の資料をご参照ください。
02.休日労働の取扱い
フレックスタイム制であっても、休日労働の取扱いは適切に行う必要があります。法定休日労働には35%以上の割増賃金が必要となるため、就業規則等で法定休日を明確にしておくことが望まれます。休日労働した場合の労働時間の取扱いは以下のとおりです。
(1)法定休日について
フレックスタイム制であっても、法定休日労働については35%以上の割増賃金の支払が必要となります。法定休日労働の時間は、清算期間における総労働時間や時間外労働とは別個に取り扱います。
(2)法定外休日について
原則は、通常の労働時間と合わせて集計し、[図表1]のとおり清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間について、時間外労働として25%以上の割増賃金の支払が必要となります。なお、法定外休日労働について会社独自の割増賃金を支払うことは可能ですが、法定時間外労働の算定に当たっては、当該労働時間も清算期間における実労働時間に含めて管理する必要があります。
[図表1] 法定労働時間の総枠(※)
| 清算期間 の暦日数 | 法定労働時間の総枠 (週40時間の場合) | 法定労働時間の総枠 (週44時間の場合) |
| 31日 | 177.1時間 | 194.8時間 |
| 30日 | 171.4時間 | 188.5時間 |
| 29日 | 165.7時間 | 182.2時間 |
| 28日 | 160.0時間 | 176.0時間 |
(※)完全週休2日制の事業場においては、一定の要件の下、労使協定により「清算期間内の所定労働日数×8時間」を、その期間の法定労働時間の総枠とすることが可能です。なお、週44時間の特例措置対象事業場について、週平均44時間を法定労働時間の総枠の基礎とできるのは清算期間が1か月以内の場合に限られます。
法定休日労働とそれ以外の休日労働では割増賃金の取扱いが異なるため、勤怠上、どの休日に労働したのかを適切に把握し、割増賃金を正しく計算する必要があります。
関係法令
- 労働基準法第32条の3
- 労働基準法第37条
- 労働基準法施行規則第12条の3
- 通達 平成30年9月7日基発0907第1号「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による改正後の労働基準法の施行について」
リーフレット等
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03.労働時間に過不足が生じた場合
フレックスタイム制では、清算期間終了時に実労働時間と労使協定で定めた総労働時間との過不足を清算します。実労働時間が総労働時間を超えた場合、その超過分を次の清算期間へ繰り越すことはできず、当該清算期間で賃金を清算する必要があります。
一方、実労働時間が総労働時間に不足した場合は、不足時間に相当する賃金を控除する方法のほか、総労働時間分の賃金を支払った上で、不足時間を次の清算期間へ繰り越して清算する方法があります。
不足時間を次の清算期間へ繰り越す場合は、繰り越した時間を加えた次の清算期間の労働時間が法定労働時間の総枠を超えない範囲とし、あらかじめ繰越し可能な時間の上限や清算方法を就業規則・労使協定等で明確にしておくことが必要です。賃金控除を行う場合も、就業規則や賃金規程の定めとの整合を確認してください。
関係法令
- 労働基準法第24条
- 労働基準法第32条の3
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04.労働時間の把握義務
フレックスタイム制は始業および終業の時刻の決定を労働者に委ねる制度ですが、使用者が労働時間の管理をしなくてもよいわけではありません。使用者は、清算期間における実労働時間を把握し、適切な労働時間管理や賃金の清算を行う必要があります。
フレックスタイム制では、清算期間が1か月の場合、1日8時間・1週40時間を超えた時間を日々単純に積み上げて時間外労働を判断するのではなく、原則として清算期間における総実労働時間と法定労働時間の総枠を比較して時間外労働を算定します。そのため、月末の清算時点で初めて時間外労働が大きく発生し、36協定の限度時間を超えることが判明することがないよう、フレックスタイム制に対応した管理ルールを設ける必要があります。
実務上は、例えば月の半分を経過した時点で実労働時間を集計し、残りの所定労働日数を踏まえて月末時点の実労働時間を予測するなど、月途中で36協定の上限超過見込みを確認する方法が考えられます。一定の基準を超える見込みがある場合には、上長・人事部門へのアラート、勤務時間の調整、時間外労働の事前承認等を行うなど、月末の清算時のみの確認に依存せず、月途中で時間外労働の発生見込みを把握する運用を定めてください。なお、月途中での確認頻度や基準は法令上の義務として一律に定められているものではなく、会社の実務上の管理ルールとして設定するものです。
コアタイムもフレキシブルタイムも設定せず就業時間帯に制限がない場合や、フレキシブルタイムが深夜の時間帯に及んでいる場合は、深夜勤務の時間数が多くなる可能性があります。また、労働安全衛生法第66条の8の3に基づき、事業者は、面接指導を適切に実施するため、労働者の労働時間の状況を把握する必要があります。偏った働き方や長時間労働が生じていないかを確認し、必要な健康確保措置につなげてください。
関係法令
- 労働基準法第32条の3
- 労働基準法第36条
- 労働基準法第108条
- 労働契約法第5条
- 労働安全衛生法第66条の8の3
通達
- 昭和63年1月1日 基発第1号・婦発第1号
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