トップ 人事労務-コラム コラム 海外赴任の予備知識-赴任国の労働・社会保険法令の概要-(第2回:ベトナム)

海外赴任の予備知識-赴任国の労働・社会保険法令の概要-(第2回:ベトナム)

海外赴任の予備知識-赴任国の労働・社会保険法令の概要-(第2回:ベトナム)

コラム

公開日

多田国際コンサルティング株式会社

 コンサルタント 笠井則宏

はじめに

 日本企業の海外赴任者が多い国の労働・社会保険法令の概要についてシリーズでご紹介しております。前回のタイに続き、今回はベトナムについてご紹介いたします。

1.労働時間

法定労働時間・休憩時間

 ベトナムにおいて日本の労働基準法にあたる法律は労働法です。同法で通常の労働時間は1日8時間以下、1週間の合計で48時間以下とされていますが、使用者には1日あたり、1週当たりの労働時間を規定する権利が与えられており、1週間あたりで規定した場合は、通常の労働時間は1日10時間以下、1週間の合計で48時間以下とされます。ただし、労働法には1週間あたり40時間労働を推奨すると定められています。

 休憩については、深夜労働でない場合、6時間以上勤務する労働者には少なくとも30分連続で与える必要があり、深夜労働の場合は、少なくとも45分連続で与える必要があります。また、交代制で勤務させる場合は、次の勤務に入る前に少なくとも12時間の休憩を与えなければならないとされています。

主な休日

 労働法で週休日、祝日、年次有給休暇が定められています。

 週休日については、毎週少なくとも24時間連続した休憩を与えなければなりません。原則は日曜日で、日曜日以外を週休日にする場合は、就業規則に規定することが義務付けられています。なお、労働周期により週休日を設定できない場合は、1か月で平均4日の休みを保証しなければなりません。

慣習としての休日とは、祝日および旧正月として定められた11日を基準として、政府により決定される休日です。この休日は有給で休むことができるとされています。なお、外国人労働者については、自民族の伝統的正月と建国記念日にそれぞれ1日ずつ追加で休むことができるとされています。

陽暦の正月        1日(陽暦1月1日)
旧正月               5日
戦勝記念日        1日(陽暦4月30日)
国際メーデー      1日(陽暦5月1日)
建国記念日        2日(陽暦9月2日と前後1日)
フン王記念日      1日(陽暦3月10日)

(JICA 「ベトナムの投資環境」2025年10月より)

年次有給休暇

 同一の使用者の下で12か月勤務した労働者には原則12日の年次有給休暇が与えられ、勤続5年ごとに1日ずつ追加されます。年次有給休暇は、使用者が労働者の意見を参考に日程表を作成し、それを事前に労働者に通知して取得させるという方法が義務付けられています。また、労働者は年次有給休暇の取得にあたり、使用者と合意すれば、多数に分割したり、3年分を一括で取得したりできるとされています。

未消化の有給休暇について、労働法には繰り越しの定めがありません。ただし、退職時に未消化の年次有給休暇がある場合は、労働者は使用者に買い取りを求めることができます。

その他の休暇

労働法には、下表の休暇について定められています。結婚休暇と忌引休暇は有給のものと無給のものがありますが、どちらも使用者に通知することで取得できると規定されています。また、規定された休暇以外の無給休暇は使用者と労働者が合意すれば取得可能とされています。

休暇詳細
結婚休暇自身が結婚する際に3日、子が結婚する際に1日の有給休暇が取得できます。また、自身の父母又は兄弟姉妹が結婚する際に1日の無給休暇が取得できます。
忌引休暇配偶者、子、自身の父母、配偶者の父母が死亡した際に3日の有給休暇が取得できます。また、自身の祖父母又は兄弟姉妹が死亡した際に1日の無給休暇が取得できます。
産前産後休暇1回の出産につき出産の前後で6か月の休暇を取得できます。ただし、出産前の休暇は2か月までとされています。なお、双子以上の場合は、2人目以上の子ども1人につき1か月追加されます。また、産休期間が満了しても休暇の必要がある場合は、使用者と合意することで無給休暇を追加することができます。
妊娠制度による休暇妻が出産する男性労働者、6か月未満の子を養子にした労働者、代理母出産をする女性労働者、代理出産を依頼した女性労働者は社会保険に関する法令に従った休暇を取得することができます。

2.賃金

賃金の支払い

 賃金の支払いに関しては、直接、全額、期限どおりに支払うこと、月給の場合は月に1回又は半月に1回、労使で合意した期日に支払うことが法律に定められており、日本の賃金支払いの原則と類似しています。ただし、通貨払いに関しては、外国人労働者には外貨で支払うことが認められています。また、直接払いに関しては、口座払いが認められていますが、口座開設や送金にかかる諸費用は使用者が負担しなければなりません。なお、賃金の根拠となる賃金テーブルや賃金表の作成及び労働基準(※)の設定が義務付けられており、その点がベトナムの大きな特徴です。

※通常の労働時間を延長することなく多数の労働者が実施することができる平均水準

割増賃金

 労働法に定められた時間外労働の賃金の割増率は次の表のとおりです。

項目割増率
時間外通常の日150%
週休日200%
祝日、旧正月、有給休暇300%
深夜(22:00~6:00)30%
時間外かつ深夜20%

 ベトナムでは労働を行う日や時間帯により割増率が細かく定められており、計算が複雑であることが特徴です。特に注意が必要なのが時間外に深夜労働をさせた場合です。日本であれば、労働日でも休日でも時間外の割増率に深夜の割増率を加算すれば済みますが、ベトナムでは、更に割増賃金の上乗せが必要となります(上表の③)。

なお、上表③における割増賃金の計算基礎となる賃金は、勤務した日の昼間の賃金になります。つまり、祝日に深夜勤務した場合は、300%の割増賃金を基礎として20%の割増率で計算されるため、通常の賃金に換算すると60%(300%×20%)の割増率が上乗せされることになります。その結果、祝日に深夜労働をさせた場合は、1時間あたり390%(300%①+30%②+60%③)の割増賃金を支払う必要があります。

3.社会保障

社会保険

 ベトナムの社会保険法では社会保険、医療保険、失業保険の加入が強制されておりますが、外国人労働者を加入対象とするかに関しては、それぞれ扱いが異なります。

社会保険は、12か月以上の契約があれば外国人労働者も加入対象となりますが、社内異動者は加入が免除されます。医療保険は、無期労働契約又は3か月を超える雇用契約を結んだ労働者は外国人でも加入対象となります。失業保険は、外国人労働者を加入対象としません。

なお、日本とベトナムの間に社会保障協定は締結されていませんので、日本からの赴任者は日本の社会保険制度の継続とベトナムの制度の二重加入になります。保険料は被保険者、事業主が、次の表のとおり、賃金に対するパーセンテージで拠出します。

 被保険者事業主合計
社会保険8.0%17.5%25.5%
医療保険1.5%3.0%4.5%
失業保険1.0%1.0%2.0%
合計10.5%21.5%32.0%

社会保険制度に関わる政令改正

 社会保険料の対象となる給与には算定上限額が設けられており、給与が算定上限額を超える場合は算定上限額で社会保険料が計算されます。算定上限額は公務員の基礎賃金を20倍した額とされていますが、政令により2026年7月1日以降、公務員の基礎賃金が234万VNDから253万VND引き上げられることになりました。そのため、社会保険料の算定上限も下表のとおり引き上げられることになります。1ドンを約0.006円として換算すると303,600円が算定上限額となり、赴任者の給与が算定上限を超えている場合は社会保険料の負担が上がることになります。

 公務員の基礎賃金 (月額)社会保険料の 算定上限額(月額)
2024年7月1日~ 2026年6月30日234万VND4,680万VND
2026年7月1日~253万VND5,060万VND

労働者災害補償

 ベトナムにおける労働者災害補償は、労働災害・職業病制度として社会保険の一部に組み込まれています。加入条件は社会保険と同様となり、保険料は事業主のみが拠出します。

労働災害制度と職業病制度では適用される条件が異なり、労働災害制度が適用されるの条件は、以下①~③のいずれかの災害を受け労働能力が5%以上低下した場合です。

①職場で勤務時間中に発生した災害、
②雇用主の指示により通常の場所以外、または労働時間外に発生した災害
③住居と就業場所との間の往復(適切な時間および往復経路)で発生した災害

 一方、職業病制度が適用される条件は、有害な環境もしくは有害な業務の就労により職業病リストに記載されている疾病に罹り、労働能力が5%以上低下した場合です。

労働者災害制度、職業病制度のいずれも適用条件に労働能力が5%以上低下することが定められていますので、労働能力が5%以上低下したことが認められない場合は給付金等を受給することができないということになります。そのため、赴任者に確実な労災補償を行うには、日本の労災保険制度における第三種特別加入(海外派遣者の特別加入)が必要となります。

育児期間の諸制度

 ベトナムには日本のように育児休業の制度はありません。その代わりに、産前産後休暇を6か月取得できるようになっています。休暇期間は産前と産後を合わせて6か月ですが、産前は2か月を超えてはいけないと定められているため、最低でも4か月は産後に休暇を取得できるようになっています。日本の育児休業は原則として子が1歳になるまで取得できますので、それと比較すると短く感じますが、その代わりに、復帰時に元の業務に就くことが保証され、復帰後30日間はリハビリ休暇を取得できます。また、子が満12歳になるまでの期間には、有給の育児休憩を取得することができ、深夜労働や時間外労働が制限されますので、仕事と育児の両立を支援する制度は整えられています。さらに、同期間は育児を理由とした解雇や懲戒処分が禁じられているため、雇用の維持という点では日本より手厚くなっています。

 適用条件内容
復帰時の保証産前産後休暇からの復帰する女性労働者元の業務に就くことが保証される
リハビリ休暇職場に復帰した日から30日以内の助成労働者健康回復、リハビリのため5日~10日の休暇を取得することができる
育児休憩満12か月未満の子を養育している女性労働者1日あたり60分の育児休憩(有給)が認められる
就業の制限満12か月未満の子を養育している女性労働者深夜、時間外、遠隔地の仕事に従事させてはならない
解雇の制限満12か月未満の子を養育している女性労働者育児を理由として解雇してはならない
懲戒処分の免除満12か月未満の子を養育している女性労働者育児期間中は懲戒処分を受けない

4.その他

日本人学校

 ベトナムには、ハノイとホーチミンに1校ずつ日本人学校があります。どちらもベトナムの主要都市であり、700人前後の日本人が通っていいます。登下校は基本的にスクールバスで行います。また、給食がないため毎日お弁当が必要です。なおベトナムに日本人学校の高等部はありません。入学金等の費用も大きな違いはありませんが、ホーチミン校は、日本商工会の会員か非会員かで入学金が異なるのが特徴です。

 ハノイ校ホーチミン校
入学金800USD500USD(日本商工会会員) 750USD(日本商工会非会員)
授業料500USD/月400USD/月
登下校バス代140USD/月150USD/月

※ 本コラムはSMBCコンサルティング株式会社のSMBCビジネスクラブ Info Loungeに寄稿したコラム「赴任国の労働・社会保険法令の概要」を改題、加筆したものです。

※弊社ホームページでは、対象国のビザや個人所得税に関する情報についても掲載しています。

※本コラムはその内容についてできる限り正確にお伝えするようにしていますが、法令の改正の動向、条文の解釈、その他の事情等、情報の正確性を当社が保証するものではないことを予めご了承下さい。