契約名が請負や業務委託であっても、実態として労働契約と判断される場合には、労働関連各法が適用されます。
70歳までの就業確保措置(努力義務)として創業支援等措置が盛り込まれるなど、業務委託形式での働き方は増えてきています。しかし、本来は労働契約であるものまで業務委託として取り扱えば、自ずと労働関連各法への違反が生じ、大きな問題となります。また、請負業者の労働者が注文者の指揮命令により働く労働者とみなされる場合には、実質的な派遣事業(偽装請負)として、派遣法にも抵触します。
この様に、労働者性の判断は労務管理上非常に重要ですが、画一的な基準があるものでは無いため、考慮される要素を知り、個別具体的に判断することが求められます。
請負・業務委託に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。偽装請負とならないよう適切な管理をしましょう。
□ 契約書に使用従属性が認められる条件等が定められている
□ 業務の進め方や環境が他の労働者と相違なく労働者と同一視される
01.契約書の内容
会社とその役員の間の契約は委任契約とされています。また、特定の成果物(仕事)の完成を目的として業務委託を行い、その仕事の結果に対して報酬を支払う場合の契約は請負契約に、法律行為でない事務を目的とした業務委託は準委任契約に該当します。(会社法 第330条、民法 第632条、第656条)
いずれも労働契約ではないため、労働関連各法は適用されません。
しかしながら、いずれの契約に該当するかは、実態に基づいて判断されるため、名目上で(準)委任契約や請負契約を締結している場合でも、実質的に見て労働契約とみなされる場合には、労働関連各法が適用されます。この点について、具体的には労働基準法の第9条の「労働者」に該当するか否かという論点で判断されることになります。
同条で労働者は「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。他人の指揮命令下において他人に従属して(使用されて)労務を提供し、その指揮命令下における労働の対価としての報酬(賃金)が支払われていることを、一般に「使用従属性」と呼び、労働者に該当するか否かは、主に使用従属性の有無により判断されます。なお、その他にも労働者性の判断を補強する要素として考えられている事由もあり、最終的には総合的な勘案により判断されます。(労働基準法研究会報告-労働基準法の「労働者」の判断基準について- 昭和60年12月19日)
<使用従属性の判断基準>
- 「指揮監督下の労働」であること
- a. 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
- b. 業務遂行上の指揮監督の有無
- c. 拘束性の有無
- d. 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)
- 「報酬の労務対償性」があること
<労働者性の判断を補強する要素>
- 事業者性の有無
- 専属性の程度
- その他
関係法令
- 会社法 第330条
- 民法 第632条、第656条
- 労働基準法 第9条
通達
リーフレット等
02.指揮監督の有無
使用従属性に関する判断基準の一つに「業務遂行上の指揮監督の有無」があります。しかし、(準)委任契約や請負契約においても、契約上当然に必要な指示があり得ます。発注者が通常行う程度の指示であれば指揮監督を受けているとは考えられませんが、業務遂行において具体的な指揮命令を受けているのであれば、使用者の指揮監督下にあると認められる蓋然性が高まります。具体的には、以下の観点から指揮監督の有無を判断することとなります。
- 業務の内容や遂行方法について、具体的な指示を受けているか否か
- 法律上当然に必要な内容を超えた指示に従う必要があるか
- 指示により当初約束されていた業務以外の業務に従事することがあるか
通達
リーフレット等
03.作業場所と時間
使用従属性に関する判断基準の一つである、「拘束性の有無」では作業場所や作業時間について、使用者による拘束があるか否かを判断します。労働者性を否定した裁判例では、以下の様な点が指摘されています。ただし、業務の性質上や安全を確保する必要上といった理由で勤務場所や勤務時間が指定される場合もありますので、その拘束性が、業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかにより判断されることになります。
- 作業日や作業日数について、自由な意思で決定することができた
- 待機場所に指定が無いなど、仕事の遂行に必要が無い限り、勤務場所の拘束がなかった
通達
リーフレット等
04.備品や材料の調達
「労働者性」の判断を補強する要素として事業者性の有無があり、その要素の一つとして業務遂行に必要な備品や材料を自ら調達しているかという観点があります。備品や材料を自ら調達して請負契約を履行する場合は、「事業者」としての性格が強く、「労働者性」が弱まると考えられます。
特に備品や材料を自ら調達することを前提に、報酬額が同様の業務に従事している正規従業員に比して著しく高額である場合には、「調達コストも含め自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う事業者」と会社による契約としての性格が強くなると考えられます。
反対に、備品や材料を会社が調達する場合は受託者の事業者性は弱まり、同時に遂行にかかる経費が含まれていない点で、「報酬の労務対象性」が強くなるため、労働者性が強まります。