労働者派遣については、労働者派遣法にそのルールが定められており、派遣元事業主・派遣先事業主の双方に一定の義務が課されています。
同法は最大で「1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金」もある厳格な法律ですので、内容を十分に理解して対応することが重要です。
また、近年特に注目されている「同一労働同一賃金」は派遣労働者についても適用されるため、法の趣旨に反する労働条件の設定が行われないよう、留意しなければなりません。
派遣先での派遣労働者の管理に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。法令に則り派遣労働者の管理をしましょう。
□ 派遣元に対して派遣可能期間を通知していない
□ 派遣先管理台帳に記載している内容が法令で定められた条件を満たしていない
01.派遣可能期間の通知
<事業所等ごとの派遣可能期間>
派遣先事業主は、原則として同じ事業所等において3年を超えて派遣労働者を受け入れることは出来ません。(手続きにより延長可能)
これは、派遣元が異なる労働者を複数受け入れる場合も同様であり、初めて受け入れた日から3年後の日が期間制限の抵触日となります。
すなわち、派遣元にとっては、別の派遣元から既に受け入れているか否か、受け入れている場合、いつ開始または延長したかによって抵触日が変わってくるため、派遣先には、派遣労働者の受け入れに際し、派遣元に対して抵触日を通知する義務が課されています。また、受け入れ可能期間を延長した場合には、速やかに派遣元に新たな抵触日を通知しなければなりません。
<派遣労働者単位の派遣可能期間>
1人の派遣労働者を同一事業所等内の同一組織が受け入れられる上限も原則3年と決められています。
この上限は、派遣開始日によって派遣労働者ごとに決まるものであるため、派遣元事業主にも把握できる情報であり、派遣先事業主から派遣元事業主への抵触日通知は不要です。
一方で、派遣元事業主は派遣労働者に対して、抵触日を通知しなければなりません。
なお、派遣元事業主は派遣労働者に対して、(派遣先事業主から通知を受けた)事業所等ごとの派遣可能期間も通知しなければなりません。
関係法令
- 労働者派遣法 第26条、第40条の2、第40条の3
リーフレット等
02.同一労働同一賃金への対応
労働者派遣法は、以下の通り、派遣労働者と派遣先に雇用される通常の労働者の間の同一労働同一賃金を規制しています。
※派遣元事業主の義務ですが、適切な派遣受け入れと派遣労働者の処遇向上のためには派遣先事業主も認識しておくことが重要です。
<不合理な待遇の禁止(均衡待遇)>
派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはなりません(労働者派遣法 第30条の3第1項)。
<差別的な取り扱いの禁止(均等待遇)>
派遣元事業主は、「職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの」については、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはなりません(労働者派遣法 第30条の3第2項)。
<労使協定方式>
前述の通り、派遣労働者に関する同一労働同一賃金は、「派遣先に雇用される通常の労働者」との待遇比較を行うものです。しかしながら、この方式では派遣先が変わる毎に待遇の見直しが必要となり、処遇条件が不安定となり得ます。
そこで、派遣「元」事業主が労使協定を締結した場合には、その労使協定に沿った労働条件とすることが可能です。
ただし、待遇の内「教育訓練の実施」「福利厚生施設の利用」は派遣先労働者との均衡・均等を図る必要があり、労使協定の対象とすることが出来ません。
【協定事項】
- 対象派遣労働者の範囲
- 次の賃金の決定の方法
- イ派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額となるものであること。
- ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があった場合に賃金が改善されるものであること。
- 派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たつては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること
- 協定の対象とならない待遇と賃金を除く、協定対象派遣労働者の待遇の決定の方法
- 派遣労働者に対して教育訓練を実施すること
- その他
- イ有効期間
- ロ協定対象派遣労働者を一部に限定する場合はその理由
- ハ特段の事情が無い限り、労働契約期間中の派遣先変更を理由として、協定の対象とするか否かを変更しないこと
(労働者派遣法 第30条の4、労働者派遣法施行規則 第25条の7、第25条の8、第25条の9)
関係法令
- 労働者派遣法 第30条の3第1項、第2項
- 労働者派遣法 第30条の4
- 労働者派遣法施行規則 第25条の7、第25条の8、第25条の9
リーフレット等
03.派遣先管理台帳の作成
派遣先は以下の内容を記載した派遣先管理台帳を派遣労働者ごとに作成し、労働者派遣終了の日から起算して3年間保存しなければなりません。
そして、記載事項(派遣元事業主の事業所の所在地を除く)は、1か月に1回以上、一定の期日を定めて、書面の交付等により、派遣元事業主に通知しなければなりません。
ただし、派遣元事業主から請求があった場合は期日に関わらず、遅滞なく通知する必要があります。(労働者派遣法 第42条、労働者派遣法施行規則 第35条、第35条の3、第36条、第37条、第38条)
- 派遣労働者の氏名
- 派遣元事業主の氏名又は名称
- 派遣元事業主の事業所の名称
- 派遣元事業主の事業所の所在地
- 協定対象派遣労働者か否かの別
- 無期雇用派遣労働者か有期雇用派遣労働者かの別
- 派遣就業をした日
- 派遣就業をした日ごとの始業し、及び終業した時刻並びに休憩した時間
- 従事した業務の種類
- 派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度
- 派遣労働者が労働者派遣に係る労働に従事した事業所の名称及び所在地その他派遣就業をした場所並びに組織単位
- 派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に関する事項
- 紹介予定派遣に係る派遣労働者については、当該紹介予定派遣に関する事項
- 教育訓練を行った日時及び内容
- 派遣先責任者及び派遣元責任者に関する事項
- 期間制限を受けない業務等について行う労働者派遣に関する事項
- 派遣元事業主から通知を受けた派遣労働者に係る健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の被保険者資格取得届の提出の有無(「無」の場合は、その具体的な理由)
関係法令
- 労働者派遣法 第42条
- 労働者派遣法施行規則 第35条、第35条の3、第36条、第37条、第38条
書式
04.派遣先責任者の選任
派遣先は、派遣先責任者を選任しなければなりません。
【職務内容】
- 次に掲げる事項の内容を、当該派遣労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者、その他の関係者に周知すること
- ①適用される法律の規定
- ②労働者派遣契約の定め
- ③派遣元事業主からの通知
- 派遣可能期間の延長通知に関すること
- 派遣先における均衡待遇の確保に関すること
- ① 派遣先における教育訓練の実施状況の把握
- ② 利用できる福利厚生施設の把握
- ③ 派遣元に提供した派遣先の労働者に関する情報、派遣労働者の業務の遂行状況等の情報の把握
- 派遣先管理台帳の作成、記録、保存及び記載事項の通知に関すること
- 当該派遣労働者から申出を受けた苦情の処理に当たること
- 安全衛生に関すること
- 派遣労働者の安全衛生に関し、当該派遣先において労働者の安全衛生に関する業務を統括する者及び派遣元事業主と必要な連絡調整を行うこと。
- (イ) 健康診断(一般定期健康診断、有害業務従事者に対する特別な健康診断等)の実施に関する事項(時期、内容、有所見の場合の就業場所の変更等の措置)
- (ロ) 安全衛生教育(雇入れ時の安全衛生教育、作業内容変更時の安全衛生教育、特別教育、職長等教育等)に関する事項(時期、内容、実施責任者等)
- (ハ) 労働者派遣契約で定めた安全衛生に関する事項の実施状況の確認
- (ニ) 事故等が発生した場合の内容・対応状況の確認
- なお、労働者の安全衛生に関する業務を統括する者とは、労働安全衛生法における安全管理者、衛生管理者等が選任されているときは、その者をいい、総括安全衛生管理者が選任されているときは、その者をいうものである。また、小規模事業場で、これらの者が選任されていないときは、事業主自身をいうものである。
- 派遣労働者の安全衛生に関し、当該派遣先において労働者の安全衛生に関する業務を統括する者及び派遣元事業主と必要な連絡調整を行うこと。
- 上記に掲げるもののほか、当該派遣元事業主との連絡調整に関すること
【選任方法】
派遣先の事業所等ごとに派遣先が雇用する者の中から専属の者を選任しなければなりません。
ここでの専属とは派遣先責任者の業務にのみに従事することではなく、他の事業所等の派遣先責任者を兼任していないことを指します。
選任人数は派遣労働者100人までごとに1人以上選任しなければなりませんが、「雇用する労働者と派遣労働者の合計」が5人を超えない(4人以下)の時は選任不要です。
(労働者派遣法 第41条、労働者派遣法施行規則 第34条)
関係法令
- 労働者派遣法 第41条
- 労働者派遣法施行規則 第34条