労働保険とは労災保険と雇用保険とを総称した言葉で、保険給付は両保険で別個に行われますが、保険料の徴収等については労働保険として、原則的に一体のものとして取り扱われています。
労働保険は、農林水産の事業の一部を除き、労働者を一人でも雇用していれば適用事業となります。そのため、事業主は成立手続等の手続きを行い、労働保険料を適切に納付しなければなりません。
労働保険に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。法令に則り適切に届出をしましょう。
□ 保険関係成立の届出がされていない事業所がある
□ 継続事業の一括の申請をせずに本社で一括の取り扱いをしている
01.保険関係の成立
適用事業の保険関係は、事業が開始された日又は、暫定任意適用事業が適用事業に該当する日に至った日に成立します。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第3条、第4条)
そして、保険関係が成立したときは、その日から10日以内に「保険関係成立届」を所轄労働基準監督署長又は、所轄公共職業安定所長に提出しなければなりません。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第4条の2)
成立手続を行うよう指導を受けたにもかかわらず、成立手続を行わない事業主に対しては、行政庁の職権による成立手続及び労働保険料の認定決定を行うこととなります。その際は、遡って労働保険料を徴収するほか、併せて追徴金を徴収することとなります。
また、事業主が故意又は重大な過失により労災保険に係る保険関係成立届を提出していない期間中に労働災害が生じ、労災保険給付を行った場合は、事業主から遡って労働保険料を徴収(併せて追徴金を徴収)するほかに、労災保険給付に要した費用の全部又は一部を徴収することになります。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律第 15条、第19条、第21条、第31条)
関係法令
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第3条、第4条、第15条、第19条、第21条、第31条
リーフレット等
02.継続事業の一括
労働保険の保険関係は、個々の適用事業場単位に成立するのが原則です。よって、1つの会社でも、支店や営業所ごとに数個の保険関係が成立することになります。しかし、以下の要件を満たす継続事業(事業の期間が予定されていない事業)については、複数の保険関係を厚生労働大臣が指定した1つの事業(1つの労働保険番号)でまとめて処理することができます。これが「継続事業の一括」です。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第9条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第10条)
【継続事業一括の要件】
- 継続事業であること
- 指定事業と被一括事業の事業主が同じこと
- それぞれの事業が同じ「保険関係」でかつ「労災保険と雇用保険がともに成立している一元適用事業」又は「二元適用事業」であること
- それぞれの事業の、「労災保険料率表」による「事業の種類」が同じこと
※労災保険と雇用保険がともに成立した場合に、両保険を1つの労働保険番号で処理することになる事業を一元適用事業と呼びます。小規模な一元適用事業では、保険関係の成立要件が緩い労災保険のみが成立している場合がありますが、この場合は(3)の要件を満たさない為、継続事業一括はできません。
関係法令
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第9条
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第10条
リーフレット等
- 「継続事業一括申請の手続の仕方」(東京労働局)
- 「継続事業一括申請の手引き」(埼玉労働局)
- 「継続事業一括申請の手続き」(神奈川労働局)
書式
03.雇用保険の非該当承認申請書の提出
被保険者に関する届出等は事業所ごとに事務処理を行うことが原則となります
一の事業所として取り扱われるか否かは、以下条件に該当するか否かによって判断されています。(業務取扱要領22002)
- 場所的に他の(主たる)事業所から独立していること
- 経営(又は業務)単位としてある程度の独立性を有すること ※すなわち、人事、経理、経営(又は業務)上の指導監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること
- 一定期間継続し、施設としての持続性を有すること
※この雇用保険法上の事務処理単位としての事業所と徴収法施行規則上の適用徴収事務の処理単位としての事業場の単位は、原則として一致します
しかし、この要件を満たさない場合であっても、他の社会保険の取扱い、労働者名簿及び賃金台帳の備付状況等により、実態を把握の上、慎重に決定が行われ、事業所と認められる場合があります。慎重な判断のうえで、一の事業所として取り扱うか否かを判断するため、人事、経理上の指揮、監督等において独立していない出張所・営業所等であって、雇用保険に関する事務処理能力がないために、他の事業所(通常の場合は直近上位の事業所)で包括して事務処理を行おうとする場合には、「雇用保険の非該当承認申請書」の提出が求められています。(業務取扱要領22051-22060 )
「雇用保険の非該当承認申請書」は、申請に係る施設の従業員数がわかる書類、当該施設に係る他の社会保険の取扱い状況が分かる書類、会社の組織図等、その他の申請書の記載事項が確認できる書類を添えて、「その施設の所在地を管轄する」公共職業安定所長に提出しなければなりません。
リーフレット等
- 業務取扱要領 ※174ページ
- 雇用保険適用事業所についての諸手続き(徳島労働局)
書式
04.事業の種類
労災保険率は54種類の業種ごとに定められており、それぞれの業種による労災発生率などを考慮して厚生労働大臣が決定します。
各業種の保険率は「労災保険率表」の形式で公表されています。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第16条1・別表第一)
なお、どの業種に該当するかの判断については、業種の内容及び範囲を詳しく規定した「労災保険率適用事業細目表」が参考になります。
関係法令
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第16条1・別表第一
リーフレット等
05.賃金総額の計算
労働保険料の額は、事業場内の全労働者に対して当年度中に支払う賃金総額に保険料率を乗じて算定するため、保険料の適切な納付にとって重要となります。
実際の納付手続きとしては、まず賃金総額の見込額に基づく概算保険料を納入し、翌年度に賃金総額の確定額に基づいて確定保険料を計算して過不足を精算します。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第11条、第15条、第19条)
※賃金総額は保険料算定基礎額とも呼ばれます。
【賃金総額見込み額の計算】
概算保険料の算定基礎となる、賃金総額見込み額は、その保険年度に使用するすべての労働者に係る賃金総額の見込み額を指し、1000円未満は切り捨てます。
なお、当該保険年度における賃金総額見込み額が、直前の保険年度の賃金総額の確定額の100分の50以上100分の200以下である場合には、直前の保険年度に使用したすべての労働者に係る賃金総額(前年度の確定額)での概算納付が可能となります。(労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第15、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第24条)
【賃金総額確定額の計算】
確定額は保険年度1年度間(4月1日~3月31日)に使用したすべての労働者への支払い実績額となります。この支払い実績は支払うことが確定した金額を指す為、確定した賃金については、実際にはその保険年度内に支払われなかった場合でもその保険年度内の賃金総額に算入しなければなりません。(労働保険年度更新申告書の書き方)
関係法令
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第2条2、第11条、第15条、第19条
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則 第24条