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社会保険に関する対応

社会保険は国民生活を保障するための公的な保険制度です。広義には雇用保険や労災保険を含みますが、狭義の社会保険として年金と健康保険の制度について説明します。
適用となる事業、対象になる労働者、資格の取得や喪失の手続き等、細かく法令に定められていますので、法令を理解し適切に対応することが求められます

社会保険に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。法令に則り資格取得の手続きと社会保険料の納付をしましょう。
 □ アルバイト等の短時間労働者について資格取得手続きをしていない
 □ 社会保険上の賞与に該当する手当や一時金について賞与支払届の提出がされていない

01.加入対象者

適用事業所に使用されている者は原則として全員が加入対象者となります。(健康保険法 第3条・厚生年金保険法 第9条)※ 原則、健康保険は75歳に達するまで、厚生年金保険は70歳に達するまでの加入となります。
使用されている者とは「労務の対償として報酬を受けている者」を指し、これには雇用関係だけでなく、委任関係による場合も含まれます。よって、労働関連法上では使用従属関係にないとされる役員も加入対象となり得ます。(昭和24年7月28日 保発74号)
なお、臨時に使用される者等、働き方が限定的である場合には適用が除外されます。
短時間勤務者については、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3未満の場合に適用除外となります。
しかし、「労働時間が4分の3未満」であっても、従業員51人以上の企業で働いており、以下の4つの条件全てに当てはまる場合は、加入の対象になります。(健康保険法 第3条1項9号・厚生年金保険法 第12条5号)

  1. 週の勤務時間が20時間以上
  2. 給与が月額88,000円以上
  3. 2ヶ月を超えて働く予定がある(更新による勤続予定を含む)
  4. 学生ではない

関係法令

  • 年金制度改正法(2024年10月1日施行)
  • 健康保険法 第3条
  • 厚生年金保険法 第9条
  • 厚生年金保険法 第12条

通達

リーフレット等

02.資格取得・喪失

【資格取得】

健康保険・厚生年金ともに以下の日に資格を取得します。(健康保険法 第35条、厚生年金保険法 第13条)

  1. 適用事業所に使用されるに至った日
  2. 使用される事業所が適用事業所となった日
  3. 適用除外に該当しなくなった日

被保険者の資格を取得した際は、その事実発生から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険70歳以上被用者該当届」を事業所経由で事務センターまたは管轄の年金事務所に提出しなければなりません。(健康保険法 第48条・健康保険法施行規則 第24条、厚生年金保険法 第27条・厚生年金保険法施行規則 第15条・同15条の2)
提出方法:電子申請、電子媒体、郵送、窓口持参

【資格喪失】

健康保険の被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の「翌日」から、被保険者の資格を喪失します。ただし、その日に更に資格を取得したときは、その日に資格を喪失します。(健康保険法 第36条、厚生年金法 第14条)

  1. 死亡したとき
  2. その事業所に使用されなくなったとき
  3. 適用除外に該当するに至ったとき
  4. 任意適用事業所が適用除外の認可を受けたとき

厚生年金の被保険者は、上記に加え、「任意単独被保険者ではなくなる認可を受けたとき」「70歳に達したとき」にも資格を喪失します。
被保険者の資格を喪失した際は、事実発生から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険70再以上被用者不該当届」を事業所経由で事務センターまたは管轄の年金事務所に提出しなければなりません。(健康保険法 第48条・健康保険法施行規則 第29条、厚生年金保険法 第27条・厚生年金保険法施行規則 第22条・同22条の2)
提出方法:電子申請、電子媒体、郵送、窓口持参

関係法令

  • 健康保険法 第35条、第36条
  • 健康保険法施行規則 第24条、第29条
  • 厚生年金保険法 第13条、第14条、第27条
  • 厚生年金保険法施行規則第15条、第15条の2、第22条、第22条の2

リーフレット等

書式

03.保険料率

○全国健康保険協会管掌健康保険
 各都道府県別に定められており、年度毎1000分の30から1000分の130までの範囲内で変更されます。(健康保険法 第160条1項~3項)
各年度の保険料率は協会けんぽの公表する「保険料額表」で確認できます。
 ※ 健康保険組合では、組合ごとに異なる料率が定められています

○厚生年金保険
 法律により「1000分の183.00」と定められています。(厚生年金保険法 第81条4項)

○子ども・子育て拠出金
 政令により、「1000分の3.6」と定められています。(子ども・子育て支援法 第70条・子ども・子育て支援法施行令 第27条)
※令和2年4月~

関係法令

  • 健康保険法 第160条1項~3項
  • 厚生年金保険法 第81条4項
  • 子ども・子育て支援法 第70条
  • 子ども・子育て支援法施行令 第27条

リーフレット等

04.報酬月額に含める賃金

標準報酬の対象となる報酬は、 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受ける全てのものです。
ただし、臨時に支給されるもの及び3か月を超える期間ごとに支給されるものは、この限りではありません。
3か月を超える期間ごとに支給されるものは、社会保険上の賞与となります
反対に、賞与の名目で支給するものであっても、年4回以上支給するものは、この標準報酬月額の対償となる報酬に含まれます。(健康保険法 第3条5項及び6項、厚生年金保険法 第3条1項3号及び4号)

関係法令

  • 健康保険法 第3条5項及び6項
  • 厚生年金保険法 第3条1項3号及び4号

リーフレット等

05.現物支給の取扱い

厚生年金保険および健康保険の被保険者が、勤務する事業所より労働の対償として受けるもののうち、現物で支給されるものについては、通貨に換算した額を報酬に合算したうえで、保険料額算定の基礎となる標準報酬月額を求めることになります。(健康保険法 第46条、厚生年金保険法 第25条)

現物で支給されるものが、食事や住宅である場合は、「厚生労働大臣が定める現物給与の価額(厚生労働省告示)」に定められた額に基づいて通貨に換算し、自社製品等その他のもので支給される場合は、原則として時価に換算します。

なお、本社管理(本社と支店等が合わせて1つの適用事業所になっていること)の適用事業所における支店等に勤務する被保険者の現物給与は、支店等が所在する都道府県の価額を適用します。

関係法令

  • 健康保険法 第46条
  • 厚生年金保険法 第25条

リーフレット等

06.賞与支払届の提出

事業主が被保険者および70歳以上被用者へ賞与を支給した場合には、賞与支給日より5日以内に「被保険者賞与支払届/70歳以上被用者賞与支払届」を事業所経由で事務センターまたは管轄の年金事務所に提出します。(健康保険法 第48条・健康保険法施行規則 第29条、厚生年金保険法 第27条・厚生年金保険法 第19条の5)※厚生年金への加入は70歳までですが、在職老齢年金の計算の為に提出が求められます。なお、算定基礎届や月額変更届も同様です。
提出方法:電子申請、電子媒体、郵送、窓口持参

【賞与の範囲】

「被保険者賞与支払届」の対象となる賞与は、賃金、給料、俸給、手当、賞与、その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給のものです。(健康保険法 第3条6項、厚生年金法 第3条1項4号)
結婚祝金等の労働の対償ではない支給は含みません

関係法令

  • 健康保険法 第3条6項、第48条
  • 健康保険法施行規則 第29条
  • 厚生年金保険法 第3条1項4号、第19条の5、第27条

リーフレット等

書式

07.二以上事業所勤務届の提出

被保険者が同時に複数(2カ所以上)の適用事業所に使用されることとなり、それぞれの事業所において被保険者の要件を満たしている場合は、両方の事業所において社会保険に加入することになります。
このとき、手続きを一本化するため、「被保険者本人」の届出により、主たる事業所を選択して管轄する年金事務所または保険者等を決定しなければなりません。(健康保険法施行規則 第1条の3、厚生年金法施行規則 第1条)

【手続き】

事実発生から10日以内に被保険者が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を選択する事業所の所在地を管轄する事務センターまたは年金事務所に提出します。
提出方法:電子申請、郵送、窓口持参

関係法令

  • 健康保険法施行規則 第1条の3
  • 厚生年金保険法施行規則 第1条

リーフレット等

書式