法律で調製が義務付けられている帳簿は、記入事項が漏れなく作成されている必要があります。
法定3帳簿と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」に「年次有給休暇管理簿」が加わった、4帳簿の作成が必要となります。
法定帳簿に関してIPO準備企業で法令違反が生じやすいのは以下の点です。法令上必要な項目を確認し、情報の収集と反映を実施しましょう。
□ 法令上必須とされている項目が帳簿にない
□ 項目は帳簿にあるものの情報が反映されていない
01. 労働者名簿
労働者名簿は、各事業場ごとに、各労働者(日々雇入れられる者を除く)について調製しなければなりません。また、記入事項に変更があった場合は、遅滞なく訂正しなければなりません。(労働基準法107条)
労働者名簿に記入すべき事項は、以下の通りです。
- 労働者氏名
- 生年月日
- 履歴
- 性別
- 住所
- 従事する業務の種類
- 雇入れの年月日
- 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあってはその理由を含む)
- 死亡の年月日及びその原因
ただし、(6)の事項については、常時30人未満の労働者を使用する事業においては記入することを要しません。(労働基準法施行規則第53条第2項)。
なお、上記(1)~(9)の事項は、必要最低限記入すべき項目であるため、これに加えて、その他の事項を記入することは差し支えありません。
また、労働者の死亡・退職・解雇の日から5年間(当分の間は3年間)保存しなければなりません。(労働基準法第109条・附則第143条第1項)
使用者が労働者名簿の調製、記入又は所要の訂正および所定期間中の保存をしない場合は、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第120条第1号)。
関係法令
- 労働基準法 第107条
- 労働基準法 第109条
- 労働基準法 第120条 第1号
- 労働基準法 施行規則 第53条
- 労働基準法 附則 第143条 第1項
リーフレット等
書式
02. 賃金台帳
賃金台帳は、各事業場ごとに調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額、その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければなりません。(労働基準法108条)
なお、賃金台帳に関しては、日々雇入れられる者の賃金についても調製が必要です。
賃金台帳に記入すべき必要事項は、以下の通りです。
- 氏名
- 性別
- 賃金計算期間
- 労働日数
- 労働時間数
- 時間外労働、休日労働、深夜労働の労働時間数
- 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその金額
- 労使協定により賃金の一部を控除した場合はその額
ただし、(6)の労働時間数は、当該事業場の就業規則で労働基準法の規定と異なる所定労働時間または休日の定めをした場合には、その就業規則に基づいて算定する労働時間数をもってこれに代えることができるとされています。(労働基準法施行規則第54条第2項)。
(7)の賃金の種類の中に通貨以外のもので支払われる賃金がある場合には、その評価総額を記入しなければなりません(労働基準法施行規則第54条第3項)。
管理監督者(労働基準法41条第2号)については、(5)の労働時間数及び(6)の延長時間数と休日労働時間数の記入は不要です。(労働基準法施行規則第54条第5項)。
また、労働者の最後の賃金について記入した日から5年間(当分の間は3年間)保存しなければなりません。(労働基準法第109条・附則第143条第1項)
なお、賃金の支払期日が、労働者の最後の賃金について記入した日よりも遅い場合は、賃金支払期日を保存期間の起算日としなければなりません。(労働基準法施行規則第56条第2項)
これにより、賃金請求権の消滅時効期間が満了するまでは保存しなければならないこととなります。
使用者が賃金台帳の調製、記入又は所要の訂正および所定期間中の保存をしない場合は、30万円以下の罰金に処せられます(労働基準法第120条第1号)。
関係法令
- 労働基準法 第41条 第2号
- 労働基準法 第108条
- 労働基準法 第109条
- 労働基準法 第120条 第1号
- 労働基準法 施行規則 第54条
- 労働基準法 附則 第143条 第1項
リーフレット等
書式
03. 出勤簿
出勤簿やタイムカード等の作成については、法律上の義務ではありません。しかし、厚生労働省の公表するガイドラインでは、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置として、「始業・終業時刻の確認及び記録」が挙げられており、その為に作成した資料は労働基準法第109条で保存義務の対象となっている「労働関係に関する重要な書類」に該当するとされています。(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)
すなわち、労働時間の適正な把握のためには、作成することが適切であり、作成した場合には、その保存が法的な義務となります。
保存期間はその完結の日から5年間(当分の間3年間)ですが、賃金台帳と同様に、賃金の支払期日が出勤簿、タイムカード等の「完結の日」より遅い場合は、賃金支払期日を保存期間の起算日としなければなりません(労働基準法第109条・附則第143条第1項・施行規則第56条第2項)。
記入項目としては以下が考えられます。
- 氏名
- 出勤日
- 出勤日毎の始業・終業
- 休憩時間
- 残業時間 等
一般的には、勤怠ソフトを利用している企業が多数です。手書きによる出勤簿の記載、出退勤のPCへの手入力は自主申告によるものと解されるため、使用者の現認やPCログ記録等といった客観的記録と相互確認した上で、時間と記録に乖離があれば調査を行い、労働時間の補正を行う必要があります。
関係法令
- 労働基準法 第109条
- 労働基準法 附則 第143条 第1項
- 労働基準法 施行規則 第56条第2項
通達
リーフレット等
04.年次有給休暇管理簿
2019(平成31)年4月より、年10日以上の年次有給休暇が付与された労働者に対して、使用者に年5日の時季指定義務が課されたことに伴い作成が義務化されました。(労働基準法施行規則 第24条の7)
年次有給休暇管理簿に記入すべき必要事項は、下記のとおりです。
- 取得時季
- 取得日数
- 基準日
それぞれを労働者ごとに明らかにした形で作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後5年間(当分の間3年間)保存しなければなりません。(労働基準法施行規則 第24条の7・第71条)
※作成・保存ともに省令(施行規則)による義務付けであり、罰則はありません。
なお、年次有給休暇管理簿、労働者名簿、賃金台帳はあわせて調製することができるとされています。(労働基準法施行規則 第55条の2)
関係法令
- 労働基準法 施行規則 第24条の7
- 労働基準法 施行規則 第55条の2
- 労働基準法 施行規則第71条