トップ 人事労務-コラム コラム 【コラム】労働紛争解決の最前線        データから読み解く「労働局あっせん」の動向と、金銭救済制度の行方

【コラム】労働紛争解決の最前線        データから読み解く「労働局あっせん」の動向と、金銭救済制度の行方

【コラム】労働紛争解決の最前線        データから読み解く「労働局あっせん」の動向と、金銭救済制度の行方

コラム

公開日

多田国際社会保険労務士法人

コンサルタント(元労働基準監督官)

石田 義貴

1. はじめに:20年越しの議論に新たな動き

 不当解雇された労働者が、復職するか、金銭(解決金)を受け取って退職するかを選択できる「解雇無効時の金銭救済制度」。2000年頃から断続的に議論が続いてきた本制度ですが、厚生労働省は2025年11月18日に行われた第205回労働政策審議会労働条件分科会において、新たな検討会を立ち上げる方針を決めました。

 本制度は、裁判で解雇無効を勝ち取っても、復職後に継続就業している労働者が3割程度に留まっている実態から、労働者に新たな救済の選択肢を与えるために導入が検討されているものです。さらに、現状では解雇が「有効か無効か」の二択でしか結論を出せない判決に、金銭的要素を加えることで、判決の内容に幅を持たせることを可能にする狙いもあります。

 しかし、会社側が「解決金さえ払えば解雇できる」と考え、かえって解雇を容易にするのではないかという懸念や、解決金の相場(上下限)の決め方が難しいという理由から、2022年に開かれた「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」での議論を最後に、法制化は足踏み状態となっています。

 そこで、厚生労働省は議論を前進させるために複数の調査を行い、その一つとして2024年度に公表されたのが「労働局あっせんにおける解雇型雇用終了事案の分析」(※)です。今後の検討会では、この調査結果を含めて議論が進められることになります。

※「労働局あっせん」とは、裁判よりも簡易迅速な手続きで解決することを目的とした都道府県労働局による個別労働紛争解決制度です。弁護士や社労士等の専門家が当事者の言い分を聞きますが、参加は任意、証拠による事実認定は行わず、当事者間の合意による解決を目指すのが特徴です。

2. 調査結果に見る、労働紛争の実態と傾向

 本調査では、解雇や雇止めといった雇用終了をめぐる紛争(485件)について、過去に行われたあっせん調査(2008年、2012年調査)と比較しながら、利用者の属性や解決内容の動向を分析することで、裁判によらない紛争解決の実態を明らかにしています。

 あわせて、裁判所の紛争解決制度である労働審判や裁判上の和解に関する調査(2013年、2020/2021年調査)とも比較し、制度ごとの違いが整理されています。

これらを踏まえた、主な調査結果と傾向は以下の通りです。

① 申請人と終了区分

 あっせん申請の99.6%は労働者側からであり、圧倒的多数を占めています。 あっせんの終了区分を見ると、合意成立の割合は37.1%と過去の調査と比べて上昇傾向にある一方、相手方(ほぼ会社側)の不参加による終了も42.7%と高い水準にあります。

② 制度利用期間

 あっせんの合意成立事案における利用期間は、2023年度は「2〜3ヶ月未満」が最多となり、過去(1〜2ヶ月未満が最多)と比較してやや長期化の傾向が見られます。中央値は2.05ヶ月です。ただし、労働審判(3.12ヶ月)や裁判上の和解(12.63ヶ月)の中央値と比較すると、依然として極めて短期間での決着となっています。

 ③ 労働者の属性(性別・雇用形態)

 労働者の性別は、2023年度に男性45.4%、女性54.6%となり、今回初めて男女の比率が逆転しました。

 雇用形態についても変化が顕著で、正社員の比率が大幅に下がる一方、非正規労働者が上昇し、2023年度には正社員が3分の1、非正規が3分の2と逆転しています。なお、労働審判や裁判上の和解では、現在も約4分の3を正社員が占めています。

[性別]

[雇用形態]

④ 勤続期間と賃金月額

 労働者の勤続期間は、2023年度調査において「1年未満」が3分の2近くに達しており、短期勤続化が進んでいます。中央値は0.61年で、2012年度(1.33年)から半減しました。

 また、賃金月額は「20〜30万円未満」が約4割で最多となり、中央値は23.0万円と上昇傾向にあります。ただし、労働審判(中央値:32.0万円)や裁判上の和解(同37.0万円)の利用者層に比べると低い分布となっています。

[勤続期間]

[賃金月額]

⑤ 企業規模(従業員数)

 相手方の企業規模は、100人〜300人未満(19.4%)や1,000人以上(16.9%)の割合が増加しており、大規模化の傾向が見られます。中央値は70人であり、2008年度(30人)から倍増しています。

⑥ 請求・解決の内容

 請求事項は、「金銭のみ」が83.0%で最多です。実際の解決内容において「復職」となったケースはわずか1.1%であり、これは労働審判(0.8%)や裁判上の和解(1.1%)と共通して極めて低い水準です。

[請求事項]                         

[解決内容]

 ⑦ 金額の水準(請求金額・解決金額)

 あっせんの請求金額は「50〜100万円未満」が最多(中央値90.3万円)ですが、実際の解決金額の中央値は23.5万円です。これを月収表示で見ると「1ヶ月分未満」が最多層であり、5ヶ月分未満までで9割を超えます。労働審判(解決金中央値150.0万円・約4.7ヶ月分)や裁判上の和解(同300.0万円・約7.3ヶ月分)と比較すると、金額面では著しい低水準にあります。

[請求金額]

[解決金額]

3.まとめ:金銭救済制度は「現場のニーズ」に応えられるか

 今回の調査の結果、あっせん、労働審判、訴訟上の和解のいずれの制度においても「復職」による解決は1%程度に留まり、実態は大半が金銭解決であることから、紛争解決手段としての金銭解決は広く利用されているといえます。一方で、あっせんは簡易迅速な手続きである反面、不参加率の高さや解決額の低さといった課題もあり、「新たな金銭救済制度の創設より労働審判等の既存制度の活用を推進すべき」という意見が出ることも想像し得るところです。

 しかし、解雇無効判決を得ても復職した上で継続就業しているのは3割程度に過ぎないという直近の調査結果(※)や、労働審判・和解により解決できない事案は最終的に判決に委ねられるという現状に鑑みれば、判決という枠組み自体に「金銭救済」という新たな選択肢を持たせるニーズは確実に存在すると考えます。

 また、本調査結果がどのように解決金の水準決定に活用されるかは、今後の議論を待つところです。判決による解決金の相場が明確になれば、あっせんや労働審判による解決金の相場もイメージしやすくなり、早期の合意を促すことができるようになる可能性もあります。これから始まる検討会では、本データと他の調査結果も併せ、具体的な制度設計に関する議論が進展することを期待します。


出典