メンタルヘルス
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対処を間違えればリスク大!ここで他社と差がつくメンタルヘルス不調者への対処法!
多田国際コンサルティング株式会社
臨床心理士・公認心理師
羽田野瑛子
企業にメンタルヘルス対策が求められるようになり久しいですが、なぜこうした対策がより一層求められるようになってきたのか、その背景を皆さんご存知でしょうか。今回は日本がメンタルヘルス対策をより一層推進するようになった背景と、メンタルヘルス対策の有無が企業に及ぼす影響、現場においてメンタルヘルス不調者が生じた際に最低限押さえておくべきポイントについて解説します。
1.企業におけるメンタルヘルス対策の必要性
日本はかつて年間の自殺者数が3万人を超えるという状況が10年以上も続いていました。その数値は今でこそ年間2万人前後となりましたが依然として高いままです。年間2-3万人という数値はとても大きく、あまりピンとこないかもしれませんが、これはおよそ1時間ごとに2-3人の方がお亡くなりになるという規模の数値となります。
また、自殺者の多くは20-60代という労働を担う年齢の方々であり、何かしらのメンタルヘルス不調を抱えていたということが分かっています。そうした状況を打破していく必要があり、日本ではメンタルヘルス対策がより一層推進されていくこととなりました。
しかしながら、直接的な利益を生み出すわけではない “メンタルヘルス対策” は企業において経営層から忌避されることもしばしばあります。では、“メンタルヘルス対策” に取り組まなかった場合、企業にはどのような影響があるのでしょうか。

近年国内では精神障害による労災請求ケースが年々増え続けています。労災が認定されれば費用面の負担がありますし、大々的な訴訟となればそれに伴いマンパワーも割かれ、結果的に社会的なイメージにも影響を与えかねません。また、内閣府の試算では休職者一人当たりのコストとして422万円が発生するということも明らかになっています。
そして、一見無関係のように見えるかもしれませんが、リクルート効果にも大きな影響を及ぼします。昨今は就活生やその親も「健康や働き方に配慮している企業かどうか」という点を重視しているという調査結果も出ており、就職・転職を主としたカウンセリングの場面においても「健康経営銘柄やホワイト500を取得している企業かどうか」という点で企業を探しているという方が増えてきました。このように、組織としてメンタルヘルス対策にしっかりと乗り出すことで得られるメリットは、今やリスクヘッジだけに留まりません。
しかし実際には現場でメンタルヘルス不調者が生じると、その対応に戸惑う方もまだまだ多いのではないでしょうか。現場において気になる社員がいた際は、以下のポイントを押さえて対応を進めていきましょう。
2.職場にメンタルヘルス不調がうかがえる社員がいた際の対応
職場にメンタルヘルス不調がうかがえる社員がいた場合には、以下の1~5のStepに沿って対応を進めましょう。心身の健康にまつわる対応は「早期発見・早期対処」が原則です。いつもと違うなと感じる点があれば、まずは本人に声をかけて然るべき組織・専門家につなげましょう。

Step2については人事や管理職の方から「何を部下の異変と捉えればよいか」とご質問を受けることがあります。日頃から部下に関心を持ってコミュニケーションを取っていくことが大前提にはなりますが、行動面では下記点を押さえておきましょう。
★部下の異変の例★
以下の状態に当てはまる社員が周囲にいませんか?
- 欠勤日数が増えてきている(例:月に4日以上欠勤している)
- 月曜日など、休み明けに遅刻や欠勤が多い
- 不調を理由としたシフト変更(例:早番から遅番へ)や勤務形態変更(例:出勤予定からテレワークへ)がよくある
- 午前中は具合が悪そうで、午後以降夕方にかけて元気になっていくような日が頻繁にある
実際の現場では、Step4の「話を聞く」で対応が止まってしまうケースが多々あります。ここで上司個人だけ・現場だけで抱え込みすぎてしまうと対応困難事例に発展してしまう恐れもあります。不調を呈している社員に対し適切な対応をとるには、Step5にいかに進めるかが重要です。個人・現場のみで抱え込まず、速やかに本人に許可をとった上で上司・人事・健康管理部門で情報共有ができるよう準備を整えましょう。
いかがだったでしょうか。今回は職場にメンタルヘルス不調者がうかがえる社員がいた際の対応ポイントのみピックアップしましたが、なかなか社内のマンパワーだけではそうした細やかな対応は難しかったり、制度が整えられなかったりするものです。これを機に社内体制を整備する際には、ぜひ産業保健に詳しい産業医・カウンセラー・外部機関に相談してみてくださいね。
参考文献――――――――――――――――