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働き方の変化とメンタルヘルス

働き方の変化とメンタルヘルス

メンタルヘルス

公開日

働き方の変化とメンタルヘルス

多田国際コンサルティング株式会社
講師兼カウンセラー
北川佳寿美

2020年の新型コロナウイルス感染症の発生とその後の拡大は、私たちの働き方に大きな変化をもたらしました。その1つがテレワーク(インターネットなどを利用して、本来の勤務場所から離れ、自宅などで仕事を行うスタイル)の急速な普及ではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症に関する雇用・就労のパネル調査(独立行政法人労働政策研究・研修機構)によると、新型コロナウイルス感染症の問題が発生する前の通常月では、7割超が在宅勤務・テレワークを実施していないと回答していましたが、2021年6月時点では週1回以上在宅勤務・テレワークを行っている労働者の割合が6割になりました。現在はコロナ禍からのより戻しが見られており、出社とテレワークを組み合わせるハイブリッドワークを実施する割合が増加しています。1) テレワークは、企業にとっては優秀な人材の確保や業務の効率・生産性の向上、また、個人にとっては通勤負担の軽減、子育てや介護のしやすさなどのメリットがあると言われており、今後も働き方の1つとして一定程度定着すると考えられています。一方で、テレワークを導入している企業の7割強が「テレワークの方が従業員のメンタルヘルスケア」が難しいと回答しており2)、テレワーク勤務者のメンタルヘルス対策が十分ではない可能性も示唆されています。今回は、働き方や働く場所が多様化していく中で、職場のメンタルヘルス対策を進めていくために、どのような視点から対策を講じる必要があるかを解説します。

1.テレワークとメンタルヘルスの関係

テレワークと働く人のメンタルヘルスにはどのような関係があるのでしょうか。テレワークは、企業にとっても働く個人にとってもメリットがある一方、企業が働き方として適切に導入・運用しなければ、長時間労働やコミュニケーション不足などのメンタルヘルス不調につながることが指摘されています3)。具体的には、上司や同僚などとの何気ない会話や相談がしづらい、上司が部下の業務の細部にまで干渉するマネジメントがハラスメントなどに繋がるといった例が挙げられおり、職場内のコミュニケーション不足が対人関係に大きな影響を与えていることが示唆されています。また、職場以外のストレス要因としては、自宅等でのテレワークに対して家庭での理解・協力が得られない、1人暮らしの場合、疎外感や孤独感を感じやすいといった点が挙げられており、従来とは異なる環境で働くことによる不安や心理的負担、生活習慣の変化が、働く人のメンタルヘルス不調に大きな影響を与えることが明らかになっています。

一方、コロナ禍で在宅勤務者に対して行った日本の調査では、テレワークを好む労働者にとってはテレワークの機会があるほどメンタルヘルスの状況はよくなるが、出勤を好む労働者にとっては、メンタルヘルスの状況は悪化することが分かっています4)。この調査が意味していることとは、テレワークがメンタルヘルスにとって良いか悪いかということは一概には言えず、個人が希望する働き方とのミスマッチが要因になっているということです。この研究知見は、テレワークのメンタルヘルスへの影響が個人のテレワークへの志向性が影響していることを表しており、企業はテレワークの導入や廃止の際に従業員の個人差を十分に考慮する必要があることを示唆していると言えます。

2.職場として配慮すべき対策とは

 では、実際に職場はどのようなことに配慮すればよいのでしょうか?

テレワーク実施時のメンタルヘルスとして職場が配慮すべきこととして、以下のことが挙げられています。

テレワーク中心の働き方は、対面の場合と比較してコミュニケーションが取りづらく、業務上の不安や孤独を感じる等により、心身の健康に影響を与えるおそれがあり、その変化に気づきにくいことが指摘されています5)。また、テレワークと出社が混在するハイブリッドワークにおいても、勤務実態の把握を現場が正確に行いにくくなったり、テレワーク従業員と出社従業員同士のスムーズなコミュニケーションがとりづらくなったりする問題も指摘されています。職場のコミュニケーションは働く人のメンタルヘルスに大きな影響を与えます。テレワークであっても、週5日出社であっても、ハイブリッドワークであっても、職場でのコミュニケーションの機会をいかにつくるかが重要です。特に、テレワークにおいて問題となった管理監督者のマネジメントスタイルとして、部下の行動をきめ細かく指示するマイクロマネジメントの弊害が挙げられます。管理監督者は、部下の働き方に合わせた適切なコミュニケーションを取る必要があります。

3.働き方に応じた対策の必要性

 筆者が現場にお伺いすると、定期的なオンラインミーティングや部下との1on1ミーティングを実施するなど、現場の管理監督者は職場のコミュニケーション不足を補おうと様々な工夫を重ねています。しかし、そんな管理監督者自身が疲弊し、孤立してしまっていることも少なくありません。従業員のコミュニケーション不足を現場の管理監督者のマネジメント不足として指摘するのは簡単ですが、実際には管理監督者もどのように対策を講じればよいのかが分からず、苦戦しています。職場のメンタルヘルス対策は、全ての労働者を対象に行うべき取り組みです。管理監督者によるラインケアが重要であることは、既出のコラムでも述べてきた通りですが、その前提になるのは、現場の管理監督者が取り組みやすい施策を組織全体で考えていくことの必要性です。テレワークやハイブリッドワークが企業にとっても働く従業員にとってもメリットとなるためには、企業として柔軟な働き方を推奨しつつも、労働環境のバランスを維持できる体制を組織全体でサポートしてくことが求められます。

参考文献――――――――――――――――

1)国土交通省 令和5年度テレワーク人口実態調査 -調査結果(概要)-,令和6年3月

2)株式会社月刊総務 「メンタルヘルスケアに関する調査」,令和2年9月

3)東京大学医学系研究科精神保健分野 「新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査」,令和2年12月

4)Otsuka, S., Ishimaru, T., Nagata, M., Tateishi, S., Eguchi, H., Tsuji, M., Ogami, A., Matsuda, S., Fujino, Y., & CORoNaWork Project. (2021). A Cross-Sectional Study of the Mismatch Between Telecommuting Preference and Frequency Associated With Psychological Distress Among Japanese Workers in the COVID-19 Pandemic. Journal of Occupational and Environmental Medicine / American College of Occupational and Environmental Medicine, 63(9), e636-e640.

5)厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会 報告書」2020年12月25日 (https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15768.html