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人事制度について再考する③:賃金制度の概要設計

人事制度について再考する③:賃金制度の概要設計

コラム

公開日

多田国際コンサルティング株式会社

 シニアコンサルタント 佐伯克志

はじめに:年功序列型賃金制度は悪か?

 2025年の秋頃、「新入社員の56.3%が年功序列を望んでいる」(産業能率大学総合研究所調査)という調査結果が話題となりました(図表1)。「年功序列か成果主義か」という質問自体はいささか乱暴な気もしますが、2006年の同調査では成果主義を望むが65.3%であることから、約20年間で逆転したことになります。

図表1.年功序列的人事制度と成果主義的人事制度のどちらを望むか

資料:「2025年度(第36回)新入社員の会社生活調査」(学校法人産業能率大学総合研究所)

 私は約30年間クライアント企業の人事制度の見直しに携わってきましたが、その多くが「(人事制度の)年功序列的性格をいかに弱めるか」ということでした。

一方で、クライアントから理想の賃金制度は?と聞かれると必ず「(同業界の中でも)高水準かつ緩やかな年功序列型制度」と答えてきました。働く側が賃金に臨むことは、「将来にわたり経済的に困らない」ということであり、これが担保されることで将来設計が容易となり、長期間にわたり安心して仕事に集中することができるのです。

 しかしながら、「(同業界の中でも)高水準かつ緩やかな年功序列制度」を実現することは容易ではありません。現実的には、限られた人件費を会社への貢献度等に応じて配分せざるを得ないということになります。 前回は、人事制度の概要設計ということで、「基準」と「等級制度」の考え方について解説してきました。今回は、前回の続編として「賃金制度」の概要設計について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

1.基準「人」「仕事」「成果」による賃金制度の選定

 前回取り上げました人事制度の「基準」の違いが、賃金制度にどのように反映するのかについて解説します。

「定期昇給」を例に考えてみましょう。「定期昇給」とは、人事評価の結果や勤務年数、年齢等を基に算出される昇給額を定期的に基本給へ加算していく制度です。これは「累積型基本給(累積給)」といい(図表2)、主に仕事における熟練度等を基本給に反映するための制度です。このため、主に「人」基準の人事制度の場合に採用されます。

 「仕事」を基準とした場合は、「この仕事の報酬はこの金額」ということになり、「定期昇給」という考え方は適合しません。そこで、標準の金額を設定し、出来栄えや成果に応じて「仕事の値段(報酬)」を増減させることになります。一般的にリセット型といわれます(図表2)。

 そして、「成果」を基準とした場合は、例えば「報酬は、個人毎の営業利益の〇%」といったことになり、やはり「定期昇給」といった考え方は適合しません。

 このように、賃金制度の設計は、人事制度の方針、基準をもとに基本給制度を選択することからスタートします。

図表2.基本給の考え方

  実際の設計においては、上記の「人」「仕事」「成果」のいずれかを単独で採用することもあれば、例えば「人」と「仕事」というように複数を組み合わせることもあります。 ここからは、国内において最も一般的な、「人」を基準とした「累積型基本給制度」について解説します。

2.累積型基本給の設計にあたっての事前検討事項

 累積型基本給制度は、「等級毎の基本給レンジ(上限値と下限値)」、「昇給に関するルール」により構成され、これらについて図表3のようなプロセスを経て設計します。

 概要設計の段階では、制度設計に備えて「初任給の水準」「標準在級年数」「基本給の重なり具合」「昇給ルール」等について検討しておきます。

図表3.累積型基本給の設計プロセス

① 初任給の水準

 累積型基本給を採用する企業の多くは、未経験の労働者を雇用し、職務経験を通して育成することを前提としています。このため、賃金制度を設計するにあたっては、スタートとなる未熟練者としての初任給の水準を決定します。

 昨今は、初任給が急激に上昇していると言われますが、各企業の収益構造により限界があります。大卒中心の採用だった企業が、専門学校卒や高校卒に採用の中心を移すといったことも行われています。また、地方と都市部でも初任給の水準に大きな違いがあります。

 新卒採用から、社会人2年目程度で基本的なビジネスマナーを備えているが、業界としては未経験といった人材にシフトする企業もあります。いずれにしても、どの領域(学歴や地域)で採用していくのか、その場合に競合他社と比較して見劣りがしない給与水準はどの程度か、自社としてどの程度支出することができるのかといったことを検討することにより、初任給の水準を設定します。

② 標準在級年数

 累積型基本給では、「等級毎の基本給レンジ(上限値と下限値)」を設定します。上限値に到達した場合には、昇格(上の等級に上がること)しない限り、それ以上基本給は上がりません。給与が上がらないという状態は、モチベーションに悪影響を及ぼす可能性が高く、特に比較的年齢の若い社員においては離職につながります。

 そこで、標準的な人事評価の社員については、入社後一定の等級までは昇給停止とならないようにする必要があります。そのために、それぞれの等級における標準在級年数を設定します。

③ 基本給の重なり具合

 基本給レンジ(上限値と下限値)を検討する際に重要な要素として「隣り合う等級間での重なり」があります。この重なりが大きいと基本給の逆転現象(下位等級の社員の方が、上位等級の社員より基本給が高い)が発生しやすくなります。基本給の逆転現象は好ましい状態ではありません。逆転現象を防ぐには、図表4の「接続型・階差型」を選択する必要があります。しかし、この場合は、基本給レンジ(上限値と下限値)の幅が狭くなるため、昇給額を少額にしなければ、短期間で上限値に達してしまいます。

 以上のことから、具体的な設計に入る前に「重複型」を採用するのか、「接続型・階差型」を選択するのかを検討しておく必要があります。

図表4.基本給レンジの重なり

④ 昇給ルール

 昇給ルールとしては、あらかじめ「等級×評価」により昇給額を決めておく昇給額表方式、あるいは「等級×評価」に応じて何号俸上がるかを決めておく号俸表方式等が一般的です。より凝った方法としては、基本給レンジの位置(例えばレンジの下から4分の1にいる)により、同じ「等級×評価」であっても昇給額が変わるといった方法もあります。

 さらには、あらかじめ「等級×評価」による昇給率表を作成しておき、昇給を検討する際に標準昇給額を決定し、標準昇給額×昇給率で昇給額を決定する率表方式といったものもあります。

 こうした方法から、企業業績の安定性や社員の理解のしやすさ、基本給レンジの狭さ・広さ等をもとに、自社にあったものを選択します。

3.リセット型基本給の設計

 最後にリセット型基本給の設計方法についても触れておきます。リセット型基本給では、「等級毎の基本給の水準」と「人事評価の反映方法」を設計します(図表2)。

 「等級毎の基本給の水準」は、該当する等級の職務・役割について分析を行い、この結果をもとに(役割の大きさを数値化する一般的な手法である)要素別点数法等を用いて職務評価を行うことで、等級毎の役割の大きさを数値化(ジョブサイズといいます)し、これを利用して等級毎の基本給(含む役職手当)を決定します。

 次に、「人事評価の反映方法」として、評価や成果に基づいてどの程度減額・増額するのかについて、年収ベースに換算した時の違いを前提に、設計します。

 リセット型基本給を設計するにあたっては、事前に「基本給の単位」と「水準の決定方法」について検討します。

 「基本給の単位」とは、等級毎に基本給を設計するのか、それとも役職(ポスト)毎に設定するかということです。いわゆるジョブ型の場合、本来であれば役職(ポスト)毎に基本給を設定しますが、人事異動にマイナスの影響がある等の理由で、等級単位で設定することもあります。 「金額設定の方法」とは、先に説明しました職務分析・職務評価を用いるのか、それとも、現在の給与水準をベースとして、基本給を設計するのかということです。本来であれば職務分析・職務評価を用いて水準を決定すべきですが、この方法だと基本給が大幅に下がったり、逆に大幅に上がったりする社員が発生することから、現状をベースに検討するケースの方が多いようです。

4.結びに代えて:賃金制度の設計における現状の重要性

 これまで説明してきました、累積型あるいはリセット型のいずれの基本給制度を採用するにあたっても、「不利益変更への配慮」のために、検討に当たり現在の基本給(あるいは賃金全体)の水準を前提とします。

 このため、目指すべき基本給制度に変更すると現在の基本給と大きく変わる(具体的には、大幅に減額する社員が発生する)といった場合には、制度の変更を複数回に分け、時間をかけて制度を変えていくということも必要になります。

 次回は、評価制度の概要設計について解説いたします。

 多田国際コンサルティング株式会社では、豊富な労務知識とコンサルティング実績に基づき、各企業の状況に最適化された人事制度の設計・運用をご支援しております。制度の抜本的な見直しから、マイナーチェンジのご相談まで、どうぞお気軽にお問い合わせください。